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第283話 二宮との取引1

「本当に驚きました。全部皇さんの言ったとおりになりましたね」

メトロ放送の社員食堂で、二宮はキラキラした目で翔太を見つめながら言った。


メトロ放送の局内には社員食堂があり、関係者のほかに入館手続きがされていれば翔太のような外部の人間も利用できる。

翔太の入館登録は皇将という名前で登録されているが、芸能人も芸名で登録することがあるため、これが問題になることはないだろう。


(とは言っても、用件は翔動に関連しているんだけどな……)

翔動の柊翔太としては二宮との接点がないため、彼女の視点では霧島プロダクションの皇が石動の代理人としてこの場に来ていることになる。


(そもそも俺がこんな約束したことが発端だったんだよな……)

翔太は刈谷から情報を得るために二宮に接触したときのことを思い返した。


←←←


「さくら放送を買収する動きが今後出てくると思います」

「えっ!?」

想定外であろう翔太の発言に二宮は戸惑っていた。


翔太は刈谷の情報を得るために、二宮を頼っていた。

神代と狭山の熱愛報道があった直後であったため、彼女はこのことを持ち出されると思っていたのだろう。


***


「――そんな 大変なことが本当に起きるんですか?」


翔太は二宮に具体的な会社名は伏せて、さくら放送を通じてメトロ放送の経営権が掌握される可能性を説明した。

彼女が信じられないのも無理はないだろう。

翔太にとっては未来の既定事項だが、世間的にはまだそれらしい動きは全く知られていない。

あえて言えば、通称北山ファンド――NZアセットマネジメントがさくら放送の筆頭株主になったことだろう。


この時点で刈谷は北山の動きを警戒していたが、若手アナウンサーである二宮にとっては関連がない出来事だった。

しかし、二宮は社史の編纂をしていたためか、翔太の話に即座に食いついた。


「この話が事実だった場合ですが、メトロ放送の経営体制が変わるということになるということですか?」

「私の話を信じるのですか?」


翔太は荒唐無稽な話をしている自覚があった。

したがって、二宮には船井の動きが顕在化してから改めてお願いするつもりであった。


「このところ、社長がピリピリしているんです……」

翔太は二宮が社史の編纂を担当しており、刈谷と接触する機会があることを以前に聞いていた。

刈谷はこの時点で船井の動きは知らないまでも、北山のことは警戒していたようだ。


「買収が成功すれば御社の経営陣が刷新される可能性もあります」

「そんな……」


翔太はこの買収劇が結果的には失敗することを知っているが、そのことは一切触れなかった。


「翔動の石動を覚えていらっしゃいますか?」

「え、えぇ、もちろん」


二宮は以前、『女優、IT業界への挑戦』というドキュメンタリー番組を担当していた。

神代がメインの番組であったが、この番組の対談企画で石動が出演している。


「この石動がさくら放送の買収を阻止するために動いています」

「えええぇっ!!!?」

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