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第28話 覚悟

「なるほど、スターズリンクプロジェクトですか」

グレイスビルの会議室に戻った翔太と橘は、神代に霧島と本社で話した内容を説明した。

神代はスターズリンクプロジェクトの概要は理解したようだ。


「明日、グレイスとのミーティングを設定しました。

スターズリンクに関する資金調達について、社内関係者と協議します」

橘は早速関係者とのミーティングを取り付けていた。


「柊さんは参加できるの?」

神代は縋るように翔太に聞いた。

何でもやるとは言ったものの、畑違いの領域なので心細いのだろう。


「言い出した以上、同席させてもらうよ」

ほっとしたようで、神代の表情が明るくなった。


明日のミーティングに向けて翔太が神代に説明を始めた。

「オーディションの練習にスターズリンクプロジェクトの資金調達の機会を利用するとは言ったけど、オーディションのシーンとスターズリンクでは、資金調達の方法が違うんだ」

神代はピンときてないようだ。


「まず、資金調達の方法は大きく分類すると、株主資本と他人資本の二種類あるんだ、この違いはわかるかな?」

神代は首を振った。


「株主資本は株主が出資した資金で、これは返済義務がないんだよ。

一方で、他人資本は借金なので、借りたお金はちゃんと返す必要がある。

前者をエクイティ、後者をデットとも呼ぶ」


「この二つの選択肢があるなら、出資される側はお金を返さなくていいエクイティのほうがいいんじゃない?」

神代の疑問はもっともだ。


「エクイティの場合は出資者がリスクをとることになるよね?

リスクを負う代わりに出資者――つまり株主は、出資比率に応じて議決権を行使――つまりは出資した会社の経営に介入できるんだ」

「ということは、経営者が自由にできなくなることもあるってこと?」


「そのとおり、役員も株主総会で決められるので、経営者がクビになることもある」

「つまり、エクイティで出資を受けた経営者には、出資者からプレッシャーがかかるということね?」


「そうそう、ちなみにオーナー企業の場合は経営者自体が株主なので、自由に経営できるんだ」

「うちはどうなんだろ?」

「うち」とは霧島プロダクションのことである。


「霧島さんが大株主なので、好き放題やってるんだよ」

「なるほど」

神代はくすりと笑った。思い当たるところがあるらしい。


「さて、クイズです。オーディションのシーンで行う資金調達方法はどちらでしょう?」

「はい、エクイティです!」

「正解!」

ここまでは順調だ。


「なんでかわかるかな?」

「うーん、原作では将来のビジョンを示しているけど、確実な利益が約束されてないので……出資者にとってリスクが高いから?」

「そのとおり!」

神代は原作をしっかり読み込んでいるようだ。


「では、スターズリンクはどっちだと思う?」

「この流れだと、デットかな?」

「理由はわかる?」

「うーん」と一息置いてから神代は考え込んだ。


「ヒント、スターズリンクの資金調達目的はビルを建てることです」

「あ、お金を返せなくなった場合、最悪そのビルを売って返せばいいんだ」

「大体その認識でOK。そういう理由で、全部じゃないけど不動産の場合はデットで資金調達をすることが多いんだ」

「なるほどー」


「デットの出資者――つまり債権者は、お金を貸すからにはちゃんと返してもらう必要がある。

なので、返してもらう保証がほしいので不動産を抵当に入れるんだ。

この場合、今回建てるビルが担保になる」

「質屋でいうところの質草ね」

「そうそう」


「ここで重要なのは、建てるビルや土地の価値が十分にあるかどうかなんだ」

「高く売れないと、お金返せないもんね」

「そう、バブルのときは土地が値上がりしていたので、融資がザルだったのだけど、今はこんな時代だから……」

この時代は、バブル崩壊後で銀行の不良債権処理がようやく落ち着いた時期にあたる。


「ということは、明日はビルの価値がどれくらいあるのかを、ちゃんと確認しておく必要があるってことね」

「そういうこと。

そのうえで、ビルから得られる収益がどれほどになるか見積もる必要がある。

住居用ビルなら賃貸収入は相場があり、比較的簡単に試算できるけど――」


「明日のミーティングには霧島カレッジからも参加者がいるので、収益性はそこで確認できると思います」

橘が補足した。


「あとは、出資を受けるグレイスの健全性や資金繰りを確認する必要があるけど、ここは木場さんに任せていいと思う」

木場は、グレイスを経営しており、スターズリンクプロジェクトの代表者でもある。


翔太は明日のミーティングに向けて、自分が知っている範囲で神代に説明した。

「――という感じで、ここまでで、なにか疑問に思っていることはある?」


「……はーい! ありまーす!」

神代はしばし考慮した後、翔太に質問した。

(なんとなくやな予感がする……)


「柊さんはIT関連のエンジニアだよね? なんでこんなに詳しいの?」

橘も翔太をじっと見つめている、同じ疑問を抱いている様子だ。

以前、この話題をしたときにはぐらかしたので、神代と同じ疑問があるのだろう。


翔太が今話した資金調達の内容は初歩的なところだ。

ちょっと勉強したと言えばこの場ではごまかせるかもしれないが、橘にはもっと突っ込んだ話をしているから、本当にごまかせるかは――

「「「……」」」

翔太は長考し、会議室は静まり返った。


おそらく二人は、友人である自分のためにも、オーディションで絶対に勝つつもりでいるだろう。

今日は助けてもらっていることもあり、事情を明かさないのはフェアではないと思った。

(腹をくくるか……)


「ちょっと長い話になるので、オーディションが終わってからでいいかな?」

二人はしっかりと頷いた。

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