第278話 二元交渉5
「なん……だと……?」
刈谷は驚愕していた。
翔太が思っていたよりも、刈谷は逢妻のことを脅威に感じているようだ。
刈谷は前社長であった逢妻をクーデターによって、その座を奪い取っている。
さらに逢妻の影響力を削ぐために、メトロ放送を上場させ、逢妻の保有株式を希薄化させていた。
しかし、依然として逢妻は大株主として一定の議決権を残しており、メトロ放送内の刈谷の権力は盤石とは言えない状態だ。
刈谷は逢妻の報復を恐れているのか、議決権に強い執着を持っているようだ。
これは北山や船井の持株を買い取ろうとする強い意思を示していることからも明白だった。
「きみは逢妻とは親しいのか?」
「逢妻さんのご自宅で将棋を指す程度です」
「そ、そこまでか……」
翔太はあえて自分の主観ではなく、事実だけを述べた。
刈谷は勝手に行間を読んだようで、声が震えていた。
刈谷の主観では逢妻が持つさくら放送の議決権を翔太に渡すほどの信用を得ていると思っているのだろう。
このことは刈谷にとって、翔太も警戒の対象となり得るだろう。
「わ、わかった。本当に船井が株を売ってくれるなら、これ以上手を出さないと約束しよう」
「ありがとうございます」
(ふぅーっ……よかったぁ)
これでオペレーションイージスの目的はほぼ達成されたと言えるだろう。
翔太はさらに念には念を入れることにした。
「私は最初の条件として『事実に基づいた公正中立な報道をしていただきたい』と言いました」
「そうだったな」
「これは白鳥グループからの伝言でもあります」
「なっ……! するとあの報道の背後には……」
刈谷は白川の正体を把握しているのだろう。
メトロ放送は白鳥グループの逆鱗に触れたことで騒然となっているという情報は二宮から手に入れていた。
当然、刈谷もその概要は把握しているはずだ。
「刈谷さんは約束を守ってくれると信じています」
「ああ、もちろんだ」
刈谷はがっくりと項垂れた。
「これから船井と交渉をしたい。彼は石動社長と一緒にいるんだったな」
「はい、そうですが」
「では二人ともここに呼んでくれ」
「石動もですか?」
「そうだ」
翔太は刈谷に従い、二人を呼び出した。




