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第272話 短期決戦

「一日でケリをつけるぞ」

「マジで?」


翔太の発言に石動は驚いていた。

白鳥ビルの会議室で翔太と石動は今後の作戦を話し合っていた。


すでに白鳥銀行からは100億円が振り込まれており、石動を仰天させていた。

この資金でさくら放送株を取得すれば、翔動と石動が設立したSPCの持株の合計が15%を超えることになる。


翔太はさくら放送株を取得するにあたって、石動に特別目的会社(SPC)を作らせており、その目的は二つあった。


一つは出資者から預かった資金をさくら放送株取得だけに使うためであった。

これは仮に翔動が本業で損失を出した場合、出資者にとって大きなリスクとなる。

このリスクを完全に分離する目的だ。


もう一つは、大量保有報告書の提出を回避するためだ。

株券等保有割合が5%を超えてた者は財務局長に大量保有報告書を提出する義務がある。

これは公開情報になるため、秘密裏に動くという目的が果たせなくなる。

翔太と石動は持株を二社に分けることで、それぞれの保有株数を5%以下に押さえてきた。


これによってエッジスフィアの船井とメトロ放送の刈谷に気づかれることなく、さくら放送株を取得することができた。

もしこの動きが露見していた場合、何らかの圧力や妨害があっただろう。


「ここから先は俺たちがさくら放送株を大量保有していることが公になる。

そうなると、時間をかければかけるほど対策されてしまう可能性が高い」

「具体的には?」

「ユニケーションや会社のネガティブキャンペーンはありそうだな。

翔動(うち)がさくら放送株を大量保有したことで、世間の関心は高まるから、少しでも悪い印象を持たれるような報道をされたら一気に周知されるだろう」

「うげっ……本当にありそうだな……」


石動は身震いしていた。

こうなってしまった場合、矢面に立たされるのは石動だ。

翔太としては、今後石動が目立つ存在になることは避けられないため、少しでも悪い印象を持たれないように対策する必要があると考えている。


「それで、翔動(うち)が弱りきったところでさくら放送株を買い叩くってことか」

「そういうことだ。なので、大量保有報告書が出たタイミングですぐに交渉して決着させることが望ましい」

「たしかに、そう言われるとそれしか方法がなさそうだな」


オペレーションイージスにとって大きな山場であることを自覚したのか、石動は高揚しているようだ。


「それで、交渉相手は二つあるだろ? どうするんだ?」


フォーチュンアーツの影響力はエッジスフィアとメトロ放送の両方に及んでいる。

船井と刈谷の両方に交渉し、東郷の影響力を切り離す必要がある。


「俺とお前で同時に交渉する。

これは船井さんと刈谷さんを万が一にも組ませないためだ。

翔動がエッジスフィアとメトロ放送の共通の敵と認識された場合、この二社が一時的に協調して翔動を排除する動きになってもおかしくはない」

「最悪じゃねぇか……」


翔太はそう言いつつも、船井と刈谷が手を組む可能性は少ないと考えていた。

しかし、最悪の展開になる可能性は排除しておく必要がある。


「それで、どっちがどっちを担当するんだ?」

「俺が刈谷さん、石動は船井さんだ」

「何となくそう思っていたけど、一応、理由を聞いておこう」


「船井さんとは特に友好的に交渉する必要がある。

その点で、接触回数が多い石動のほうが適任だ。

船井さんとはそれなりに親密度は高まったんじゃないか?」

「まぁ、そうだな……大分打ち解けたと思う。柊が刈谷さんを担当するのは?」

「俺も刈谷さんとは面識がないが、彼に関する情報は色々と集めている。

刈谷さんは俺たちの情報を一切持っていないだろうから、この情報格差が交渉を有利に作用するだろう」

「なるほどな」


翔太はシュナイダーや二宮から刈谷に関する情報を得ていた。


「それに、俺は逢妻さんと接点がある。刈谷さんにとって逢妻さんはアキレス腱なんだ」

「交渉カードはそろっているってことか」

「まぁ、万全ではないが……」


石動には言わなかったが、翔太は白鳥家の動向も強い交渉材料になると考えている。


「それで、作戦は――」

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