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第270話 逆鱗

「これは当家にとって看過できないことだ」

白鳥家は激怒していた。


翔太は白鳥銀行の頭取室にいた。

頭取室には翔太を呼び出した詮人(あきと)とその兄であり、白鳥銀行頭取の基人(もとひと)が集まっている。


白鳥銀行の頭取室は本店ビルの最上階に位置し、天井が高く広々とした空間になっている。

壁一面の大きな窓からは都心の眺望が一望できる。


白鳥家の怒りの矛先はメトロ放送だ。

白川と白鳥の兄妹が一緒にいただけのことが、スキャンダルとして報道された。

これが二人の名誉を毀損していることを問題視しているようだ。


今回の報道は根も葉もない情報をもとにした芸能人スキャンダルという、さして珍しくもない出来事だ。

一般的には報道された側が所属事務所などを通じて事実関係を否認したり、異議を申し立てたりするのが関の山だろう。


しかし、白鳥家にとって白川は宝物のように大切に扱われていた。

その彼女が穢されたことは一族にとって許容できない事態なのだろう。

メトロ放送は虎の尾を踏んでしまったのだ。


(綾華はこうなることがわかっていてやったんだろうな……)


「総帥も大変ご立腹なんだ……」

詮人は少し疲れた表情を浮かべていた。


白鳥家総帥である尊人(たけと)は白川の祖父だ。

あの尊人が激怒したとなれば、相当な剣幕だったことは想像に難くない。

(親バカというか、伯父バカというか、爺バカというか……)


「それで、法的措置を取られるのですか?」

翔太はそう言いつつ、彼らがそのような手段を取ることはないと思っていた。

なぜならば、翔太をここに呼ぶ必要がないためだ。


「柊くんも感じているように、よくあるスキャンダルの誤報だ。

このような些事に対して、世間からあからさまに権力を振りかざすように見えることに問題があるのだよ」

「はぁ、そういうものなんですか……」


翔太には上流階級が重要視する面子や体裁がわからないため、基人の発言に頷くしかなかった。


「綾華が白鳥家の人間だということはごく一部にしか知られていない。

訴訟騒ぎになると、これが公になってしまうんだよ」

「なるほど」


翔太は詮人の言い分のほうが理解できた。

(だけど、綾華は何で身分を隠してまで芸能人やっているんだ……?)


「そうなると、メトロ放送に対して別な形で対策をされるということですね」

「誤報であること訂正させるように手は打ってある」


これは翔太にとって既知の情報だった。

霧島プロダクションとしても事実無根であることをメトロ放送に通達する予定だったが、白鳥家のほうが動きが早かった。


本来であれば番組が訂正と謝罪をすれば手打ちであろう。

しかし、白鳥家の反応をから、翔太にはそれで収まるようには到底思えなかった。


「白鳥グループは特定のメディアを肩入れしたり、排除したりしない方針を取っている」

「はい、それは石動から伺っております」

「表向きには白鳥グループとして動けないが、メトロ放送には猛省してもらう必要がある」


(やはり親族バカだ……)

翔太は余計な一言を言わないように気をつけた。


「そこで、当行は翔動(きみたち)に出資することにした」

「は?」

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― 新着の感想 ―
 白川、恐ろしい子(笑)。
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