第268話 パパラッチ
「丸織という男です」
白鳥邸の白川の自室では、黒田が報告を行っていた。
黒田が提出した書類には丸織に関したあらゆる情報が網羅されている。
「フリーのカメラマンですか」
白川は宝石のような瞳で報告書を余すことなく確認していた。
「彼の動きは赤澤が追っています」
黒田は白川が欲している情報を先回りして答えた。
黒田の表向きの仕事は白川のマネージャーであるため、四六時中張り付くことはできず、赤澤と連携して動いている。
「現在はメトロ放送と専属契約を交わしているようです」
「それは好都合です。では手筈通りに」
「御意」
黒田は忍者のように音もなく去っていった。
***
「お兄様。お願いがございます」
「へ?」
白鳥の自室では妹の綾華が頭を下げて懇願していた。
彼女の美しい髪が床に触れてしまうのではないかと思い、慌てて頭を上げるように促した。
白鳥は自分の記憶を手繰ったが、妹にお願い事をされることは幼少期以来なかったはずだった。
それだけに白鳥は驚きを隠せなかった。
「それで、お願いって?」
「行きたいところがあります。私と同行いただけないでしょうか」
自分は石動に言われるほどシスコンではないつもりだが、今の局面で断ることができる者がいるだろうかと思わざるを得なかった。
***
「本当にいやがった。最近の俺はマジでツイている」
丸織は内心で歓喜した。
匿名のタレコミがあり、半信半疑のまま現場に来てみれば、目的の人物が本当にいたのだ。
先日は神代と狭山のツーショットを捉えたことで、丸織は大きな臨時収入を得ていた。
「これがメトロ放送にしか売れないのがちと残念だがな」
今のターゲットは神代に引けを取らないほどの大物だった。
ここでいい写真を撮ることができれば、当面の間は美味しいものが食えるだろう。
「相手の男は……くそっ、超イケメンだな……ったく、世の中ってはこうも不公平なんだよな」
少女の隣にいるのは会社員と思われる青年だった。
芸能界にいても全く違和感のないほど整った容姿であったが、職業上、芸能人でないことはよく知っていた。
「相手の男が芸能人だったら更に美味しい仕事だったが、それでも十分な成果だ」
丸織は気配を消しながら、意気揚々と二人を追いかけた。
仕事柄、後をつけるのは彼の十八番だったが、この時自分がつけられていることには全く気づいていなかった。




