第266話 二宮の葛藤
「あれ? にのみーじゃね?」
「すっごい綺麗……それに隣の人もびっくりするくらい美人……」
「日本人かな……外国人っぽくも見えるけど」
台場のカフェでは二宮と神代が扮するシュナイダーが注目を集めていた。
大きな知名度に加え、類まれなる美貌を持つ二宮と、国籍不明のミステリアスな雰囲気を持つシュナイダーが二人そろうことで、否が応でも目立っている。
「一緒にいる男の人もすごいイケメン……」
若い女性がうっとりとした表情で皇に扮した翔太を見つめていた。
(目立つ要因、俺もかよ……)
「すみません、局から近いところで同僚があまりこないのはここくらいしか思いつかなくて」
二宮は申し訳なさそうに言った。
二宮は律儀にも先日助けてもらったお礼を言いたいとのことだった。
多忙な彼女がなんとか時間を作った結果、このカフェで落ち合うことになった。
翔太としても情報共有をしたかったので、神代に同行してもらった。
実際に二宮を助けたのは翔太ではなく神代なので、翔太のほうがオマケと言ってもいいだろう。
「あのときは本当に助かりました。ありがとうございます」
「助けたのはシュナイダーさんですよ」
「それを決めたのは皇さんですよ」
神代はシュナイダーの声と口調で言った。
会話が聞かれる可能性があるため、身バレを防ぐためにそうしている。
「なぜ私があの状況にあったのが分かったのですか?」
「番組の収録時にたまたま彼らの会話が聞こえたんですよ」
衆目があるため、翔太と二宮は固有名詞や具体的な表現を避けて会話を続けた。
「シュナイダーさんもありがとうございます。あのときはうまく機転を利かせていただきました」
「どんなふうに切り抜けたんですか?」
翔太は二宮を助け出すやり方は神代に任せていたので、具体的な経緯は聞いていなかった。
「E社の情報を二宮さんが掴んだという体で、社長を呼び出すことができました。
詳しい話は二宮さんから直接聞くようお願いしました」
「私は移動中にシュナイダーさんからその情報を共有してもらいました」
「なるほど……」
二人はうまく連携を取って、エッジスフィアの情報を刈谷に流したようだ。
翔太はどの情報を流してよいかを神代と共有していたため、その中でも緊急性が高いものを選んだのだろう。
「彼は徹底的に潰すようです。E社と取引のある銀行にも圧力をかけたみたいで」
「その件は石動が対応しています」
「すごいですね……石動さん、あんなに若いのに」
「今は優秀な参謀が付いているんですよ」
二宮は社史の編纂を担当しているらしく、刈谷と接触する機会がある。
このことが翔太にとって都合がよかった。
「皇さん、私との約束は忘れていないですよね?」
「はぁ、まぁ……」
「約束……?」
(こわっ!)
神代の眉がピクリと動き、刺すような視線で翔太を見つめた。
体感的には室温が10℃くらい下がったように感じる。
なんとかごまかそうと思っているところで、二宮が真剣な表情で言った。
「私、今の局のやり方は間違っていると思うんです」




