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第257話 見落とし

「確かに、インフィニティスター(やつら)ズだけ扱いが手厚いな」


翔太は長町が出演するメトロ放送の歌番組の収録現場に来ていた。

スタジオ内は、色とりどりの照明が煌めき、ステージには豪華なセットが組まれている。


その中でも長町の存在は際立っていた。

翔太を魔改造した三人が長町を楽屋で完璧に仕上げており、歌手としての人気が非常に高いことも納得できた。

(いゃ、見た目で判断しちゃいけないんだろうけど……)


翔太が気になったのは、番組の中で狭山が所属している男性アイドルグループ『インフィニティスターズ』が優遇されていることだった。

これは一見すると気づかない程度だが、司会者の話題の振り方やカメラワークなど、微細なところで彼らを盛り上げようとしていることがわかった。

船岡から事前に情報を得ていなければ、翔太は気づくことができなかっただろう。


「――うっ!」

翔太はゾクッと背筋が凍りつき、吐きそうなほどの嫌悪感を覚えた。

地球上のどこを探しても、翔太にこれほどの不快感を与える人物は他にいない。


「いつもお世話になっております」

翔太は目の前の人物に対して、内心とは真逆といえるほど丁寧に挨拶をした。

直接会うのは二度目のため、表情を取り繕うほどの余裕はあった。


「きみは霧島のところの役員になったんだね」


東郷は翔太を覗き込むように眺めていた。

東郷としてはライバルである霧島プロダクションの人事動向を把握していてもおかしくはない。


翔太は視線を向けられるだけでも不快に感じていたが、それを表に出さないよう細心の注意を払った。


「ええ、成り行きでそうなってしまいました。あくまでも臨時です」


翔太は返事をしながらも、東郷が柊翔太にたどり着いていないかが不安だった。

霧島プロダクションのウェブサイトなど、公開されている情報には皇将が非常勤取締役として記載されている。

法務局で履歴事項全部証明書(登記簿)を確認しない限り、柊翔太の名前は確認できない。


「うむ、霧島は酔狂で人事を決めるようなことは絶対にしない。

皇くんが相当な実力を持っていることは間違いないだろう」

「恐れ入ります」


東郷の口調は紳士的であり、翔太の素性を探っている様子はなかった。


「当事務所では雫石くんのことを高く買っている。

()()()()()()のであれば、いつでも連絡をしてほしい」


そう言って東郷は去った。

彼は()()()()()を諦めていないようだった。


***


「ふぅ」


翔太は長町の様子を眺めつつ、状況を整理した。

フォーチュンアーツとエッジスフィアは資本提携により関係が深くなっている。

したがって、エッジスフィアと敵対関係にあるメトロ放送で、その所属タレントが優遇される理由はない。


この先、エッジスフィアによる買収が成功すれば船井の意向が反映され、フォーチュンアーツのタレントが優遇されることもあるだろう。

しかし、今の時点でメトロ放送は船井を乗っ取り屋として扱い、徹底抗戦をしている状況だ。

つまり、東郷は船井とは別のルートでメトロ放送に働きかけていることが考えられる。


「何かを見落としている気がする……」

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