第255話 一日マネージャー
「おめでとうございます。一位ですよ」
翔太は助手席に座っている長町に向けて言った。
彼女は携帯電話で自分のブログを確認しようとしていたところだった。
安全面を考慮すると、長町には後部座席に座ってほしかったのだが、彼女は頑として助手席を譲らなかった。
(俺の免許証、通用するかなぁ)
翔太は皇の姿になっており、免許証の顔は柊翔太だ。
警察官に確認されたら、本人であることを証明する自信がなかった。
「えっ!? うそっ!?」
長町は「カチカチカチカチ」と、ものすごい速度で携帯電話を操作しだした。
おそらくブログのランキングを確認しているのだろう。
「ほ……本当だ……柊さん! ありがとうございます!」
「ちょっ……危なっ」
長町はよほど嬉しかったのか、運転中の翔太の腕を掴み左右に揺さぶっていた。
音楽のヒットチャートでトップを取ったこともある長町が、ブログのランキングでここまで喜ぶことは意外であった。
「ついに鈴音を抜くことができたんですね!」
これまで、ブログランキングは星野のほぼ独壇場であった。
今回長町が一位を取れたのは、データを取るまでもなく、船井が出演した番組の影響が大きいだろう。
ブログのコメントには船井を呼んだことに対する誹謗中傷も含まれており、翔太としては複雑だった。
悪意のあるコメントはある程度自動でフィルタリングされるが、それでもコメントとして残ってしまうものはある。
長町に対する世間の評価は熱狂的に崇拝するものとアンチで二極化しているため、槻木によると彼女はこの手の誹謗中傷には慣れているようだ。
「今回は本当に助かりました。かなり無茶なお願いをしたことは自覚しています」
いくら長町が番組への影響力が強いとはいえ、放送局の反発は相当なものがあったことは想像に難くない。
船井に対する批判が長町にも向けられることもあるだろう。
「キリプロにとって必要なことなんですよね?」
「はい、絶対ではないですが、かなり重要なことでした」
「……」
長町は翔太の顔をまじまじと見つめている。
(運転に集中できないから、やめてくれませんかね?)
「それにしても、皇さんはイケメンですね」
「えっ? 槻木さんに比べれば全然ですよね?」
これは翔太の本音だった。
槻木は狭山が所属しているアイドルグループ『インフィニティスターズ』のメンバーと言われてもおかしくないほど容姿が整っていた。
今となっては槻木の経歴を確認することは容易いが、そのような余裕はなかった。
今日のマネージャー業務の内容は槻木から引き継いでいる。
霧島プロダクション内の業務内容を把握するという意味で、マネージャーを一日経験するのは良い機会だと翔太は思ったため、これを引き受けた面もあった。
スケジュールの詰まった長町を担当するのは大変ではあるが、彼女の仕事はレギュラー番組などが多く、イレギュラーな対応を要求されることはないとのことだった。
「私は皇さんより柊さんのほうが好きですケド」
長町の意外な発言に、翔太は顔がかぁっと熱くなったことを自覚した。
「つ、着きました」
車内が妙な空気になりかけたので、翔太はほっとした。
***
「おはようございます。長町さん……と、あれ?」
目の前の可憐な少女はアニメの収録スタジオに入った翔太と長町にあいさつをした。
「大河原さん――ここじゃ須賀川さんだったね。お久しぶり」
大河原と呼ばれた少女は目を白黒させていた。




