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第247話 友好的買収

「船井さんの一連の発言には、リスナーに対する愛情が感じられませんでした」

記者会見の席上で、刈谷は力強くコメントした。


メトロ放送はさくら放送の株式を公開買付け(TOB)する計画を発表した。

このTOBはエッジスフィアの影響力を排除し、メトロ放送の支配権を強化するものだ。


この発表の場となった記者会見では、さまざまな質問が寄せられた。


「TOBの目標を教えてください」

「50%を取得し、筆頭株主となることを目指しています」


現在、エッジスフィアがさくら放送株を30%以上保有しており、船井はさらに50%超まで買い増し、さくら放送を子会社化を目標にすると発表している。

刈谷の発言はこれに真っ向から対抗するものだ。


「さくら放送としての意向をお伺いします」

「当社としてはメトロ放送との関係を重視しております。

船井さんがやったことは合法かもしれませんが、ずるいと思います」


記者の質問に対してさくら放送の社長、函南(かんなみ)は悔しげに答えた。

この返答は、船井が立会時間外にさくら放送を大量取得したことを受けてのものだった。


刈谷にとってこの記者会見の場は重要だった。

世間では船井の発表が大きな話題となっており、船井の行動を支持する意見と反対する意見で真っ二つに分かれていた。

船井は若年層に支持される一方で、年配層には好印象を持たれていない傾向にあった。


刈谷にとっては世論を味方につけるためにも、この記者会見を印象良く終わらせる必要があった。

船井のような若造に支配されることに対し、形容しがたい憎悪のような感情を表に出さないよう、十分に気をつけながら会見に臨んでいた。


その意味で、先ほどの函南の発言は世間の同情を誘うことができるかもしれないが、自らの脇の甘さを強調してしまった結果とも言える。

刈谷は函南と事前に綿密な準備ができなかったことを悔やんだが、船井に後手を取ってしまった以上、いち早く行動する必要があった。


「それではメトロ放送による買収が実現した場合、これは友好的買収と言っていいでしょうか?」

「はい、その認識で間違いありません」


記者会見の会場はパシャパシャパシャと、シャッター音が響くとともに、フラッシュが瞬いていた。


***


「ふぅ、なんとか乗り切ったか……それにしても船井め……」

記者会見を終えた刈谷は忌々しげに独り言を言い放った。


メディア関係者は自分たちの存在を脅かす船井を快く思っていない。

したがって、記者会見での質問はメトロ放送にとって好意的なものがほとんどだった。


放送事業者は放送法や電波法によって守られている。

大衆に対して大量の情報を迅速に流布する媒体がマスメディアであり、情報の多方向的な伝達者として唯一ではないが不可欠の地位を占めている。

『第4の権力』と呼ばれるゆえんである。


他局とは競合関係にあるが、この既得権益を脅かす船井の存在は放送事業者にとっての敵である。

このような経緯から、敵の敵は味方という状態にある。


しかし、メトロ放送の形勢が悪くなれば掌を返す輩も出てくるだろう。

すでに一部の記者の質問からは経営体制の甘さを追及される場面もあった。


刈谷はこれからエッジスフィアによる買収を阻止するために、やることが山積している。

したがって、個別に来ている取材依頼は全て断るつもりだった。

――その刈谷にとって無視できない相手からの連絡が入ってきた。

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