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第233話 普段どおり

「うわぁ……」

グレイスビルの執務室で、神代のブログに寄せられたコメントを見て、翔太は気分が悪くなった。


─────

裏切りもいいとこだよ!ファンをナメてるのか?


清純派ぶってたくせに、もう信じらんねーよ


人気保つために狭山と付き合ってんじゃねーの?


売女、ビッチ


ずっと応援していたのに……サイアク

─────


中には神代を信じて応援しているコメントも寄せられているが、ここまで叩かれるのは翔太が神代と知り合ってから初めてのことだった。

神代の芸能活動において、この手のスキャンダルは初めてだったこともあってか、その反動は凄まじかったようだ。


ブログのコメントは翔太の管理下にあるため、誹謗中傷が含まれるものはフィルタさ れて表示されておらず、神代にも見えていない。


一方、インターネット掲示板はこのようなフィルタリングがされていないため、散々に書かれていた。

神代は橘からこの手の情報を見ないように厳命されているため直接の誹謗中傷は受けていないが、何らかの形で漏れ伝わっているだろう。


***


「最近、ここで作業することなくなってきたねー」

神代は一息入れるために休憩室を訪れた翔太に言った。


「業務上、所属タレントにも見せられない情報が増えてきたからね」


翔太は役員になったことを理由に、先ほどまで行っていた作業について伏せた。

いつもなら、休憩室でもやっていた作業だ。


しかし、どんなに取り繕ったところで、神代には見透かされているだろう。

神代は翔太が何かを隠していることを知っていながらも、それを微塵も感じさせないほど普段通りの表情だった。


「まさか、柊さんが霧島プロダクション(うち)の役員になっちゃうなんて……初めて会ったときには想像もしなかったよ」

「俺もびっくりだよ……『芸能界に全く興味のない俺が』ってタイトルで小説でも書こうかな」


翔太は空元気かもしれないが、神代が落ち込んでいないことに安堵していた。


「たしかに仕事は減っちゃったけど、その代わり休みが取れるようになったし、今の仕事は楽しいよ?」


神代はそんな翔太を見越したかのように言った。


「雫石との舞台はどう?」

「それが、ひかりってばすごいんだよ――」


いつの間にか、雫石の呼び方が変わっていたようだ。

演劇を好む神代にとって、テレビ出演が減ったこと自体は、本当に気にしていないのだろう。


***


「それで、『オペレーションイージス』だっけ?」


『オペレーションイージス』は石動が付けた作戦名だ。

この名称は、作戦の目的が霧島プロダクションやさくら放送、そしてエッジスフィアを守ることに由来している。


「石動は中二病が抜けていないんだよ……」

「えぇ、いいじゃん、かっこいいと思うよ?」

「ふ、複雑だ……」


翔太は過去の自分のセンスをフォローされた気分になった。


「それで、梨花さんは本気なの? 嫌な思いをすると思うよ?」

翔太は橘から、神代もこの作戦に加えるよう依頼されていた。

これは神代からの志願である。


これから対峙する相手は、一癖も二癖もある。

危険な目に遭う可能性もゼロではないだろう。


「みんなが頑張っているのに私だけが何もしないのは、後で絶対に後悔すると思う」

「うーん……気持ちはよくわかるけど……」

「実は私ができることがあるんでしょ?」

「ぎくっ」


今日の神代は何もかもお見通しだった。

「実は作者も作品のタイトルがそらで言えなくて、いつもコピペしているらしいよ」

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