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第232話 パートナー

「ぶーーーーーーー!」

「ちょっ……汚いわね」


新田は自分のPCをかばいながら言った。

石動は翔太の発言に、コーヒーを吹き出していた。

さながら、探偵ドラマのオープニングのようだった。


(すまん……せっかく入れてくれたのに……)

このコーヒーは田村が入れてくれたもので、翔太は内心で彼女に謝罪した。

翔太と石動は女性にお茶くみをさせるという典型的な日本企業文化を撤廃していたが、田村は率先して行っていた。

田村が入社したことで、滞っていた経理などの庶務が円滑に処理されるようになった。

これは、アクシススタッフ時代では翔太も知らなかった田村のスキルだった。


石動がコーヒーを吹いたのは、エッジスフィアによるさくら放送の買収を阻止するために必要な資金の金額に驚いたためだった。 ※1


「に……にっ……」

「聞き間違いじゃないから、安心しろ」


目を白黒させている景隆をよそに、橘は「ふむ、そうですね」と手元のPCを操作しながらつぶやいていた。

新田も同様に、「時価総額わかるんだから、それくらい暗算できるでしょ」とこぼしていた。


***


「手を組む相手は翔動(うち)でよかったんですか?」


翔太は改めて橘に問いかけた。

本来、問いかける相手は霧島であるが、今となっては橘で問題ないであろう。


石動と新田は非常に大きなミッションを与えられ、会議室を抜けていた。


さくら放送の買収を阻止するには途方もない資金が必要である。

そのような資金力を持つエッジスフィアと対峙するには、翔動の資金力が圧倒的に足りないことは明白であった。


「ふふ、先程、柊さんが有利な点があるって仰っていたじゃないですか」

「ああでも言わないと、石動が怖気づきますからね」


翔太は石動に、自分が未来を知っていること、そして、船井が自分たちを取るに足りない存在と油断していることが有利に働くと言っていた。 ※1


「柊さんと石動さんなら、なんとかしてくれると思っていますよ」


霧島が入院しており、東郷と船井が手を組んで攻撃を仕掛けてきている今の状況は、霧島プロダクションにとって窮地といってもいいだろう。

それにも関わらず、橘は泰然としていた。


「梨花さんは大丈夫なんでしょうか?」


翔太は相変わらず、芸能界には全く興味がない。

霧島プロダクションの役員となった以上、なんとかするつもりではいるが、翔太の優先事項は神代や自分が関わったタレントだ。

霧島も橘も、それを承知のうえで翔太を芸能事務所の経営に巻き込んでいる節があった。


「ええ、その梨花なんですが、お願いがあります」

※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 162話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/162/

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