第231話 反撃の狼煙
「はあああっ!? つまり、東郷は自分の性欲を満たすためにメディアを支配しようとしているの?」
普段でさえキツイと言われている新田の表情が、今は般若のようだ。
石動は恐ろしさのあまり震え上がっており、さすがの橘も驚いた表情を見せた。
翔太は雫石と柊翔太の名前を伏せたうえで、新田に東郷の目的を共有した。
その新田の反応がこれであった。
「俺たちはこれを阻止するつもりだ」
「あったり前よ、こんなこと絶対に許せないわ!」
翔太にとって、これからの行動で新田の協力は不可欠であったが、思いがけず全員の意見が一致した。
「柊さんの経験では、船井社長はさくら放送の買収に成功したのですか?」
橘の質問に全員の視線が翔太に集まった。
「一歩手前まで行きましたが、最終的には失敗しています」
「なら、放っておいてもいいってことか?」
「いゃ、さくら放送とメトロ放送はかなりギリギリのところまで追い込まれた。
今回は東郷の助けもあるから、このままだと成功する可能性が高い」
「ってことは、俺たちが阻止する必要があるってことだな」
「そうだ」
「うしっ!」「ふむ」「当然ね」
翔太が決意を示したことで、会議室に熱気が戻ってきたように感じた。
「ちなみに、東郷のことがなければ俺はこれを静観するつもりだった」
「それはキリプロに影響が出ないからってこと?」
「それもあるが、メトロ放送の刈谷さんは、あの手この手で船井さん――エッジスフィアを徹底的に潰したんだ」
「乗っ取ろうとした相手に対する報復か」
「そうだろうな。この事件があったからか、船井さんほどの起業家は日本から生まれることはなくなった」
「起業家が萎縮したってことか?」
「俺はそう見ている」
「結局は刈谷さんの影響力は船井さん以上ってことか……『出る杭は打たれる』という日本特有の風潮があるからなぁ……」
翔太と石動の会話から思うところがあるのか、新田は「業界にとってはかなりネガティブね」とぼやいていた。
「俺は船井さんが東郷と手を切ることができれば、船井さんも救いたいと思っている」
「キリプロに害が及ばないければいいってこと?」
「そうだ」
「霧島プロダクションとしては、東郷によるメディア支配が回避できれば構いません」
「俺も特に異議はないな……新田は?」
「私も、エッジスフィアを潰すことは業界全体にとってよくないと思う」
「じゃ、決まりだな」
石動は会議室のホワイトボードに目的を書き出した。
1. エッジスフィアによるさくら放送(メトロ放送)の買収を阻止する
2. エッジスフィアとフォーチュンアーツの資本提携を解消させる
3. 刈谷によるエッジスフィア潰しを阻止する
「まぁ、そんなところだな」
石動が書いた内容は、翔太が思っていることと寸分も違わなかった。
翔太はビジネスパートナーが石動であることが大きな強みになっていることを感じた。
一般的に企業を運営する当たって、共同経営などでトップが複数いると失敗するケースが多い。
これは意見対立、責任の曖昧さ、意思決定の遅延など、多くの弊害があるためだ。
しかし、翔太と石動は元の人格が同じであるため、このような衝突が起こることはほとんどない。
「柊のことだから、対抗策は考えてあるんだろ?」
「あぁ、もちろんだ」
かくして、翔動設立以来、最大の作戦が始まった。




