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第229話 熱愛報道

「つまり、そのタイミングを撮られたってことね」

橘の表情には報告した二人を責める様子は見られなかった。


─────

大変なスクープが入ってきました!

神代さんに、ついに異性との交際の噂が! しかも、相手は狭山さん! これは驚きのニュースです!


おお、これはなかなか決定的な写真ですね。お二人の距離感が近いですよ


そうですね、お二人の間に流れる空気感が、ただならぬものを感じさせます


そうですね……この関係がどうなるのか、今後の展開が気になります。この番組が親密さを物語る貴重な証拠となるかもしれません

─────


録画した番組を確認したところ、神代と狭山が親密な関係にあるように見える角度で撮られた写真が映し出されていた。

その様子をワイドショー番組の司会やコメンテーターが嬉々として語っていた。


「ひどいな……」

石動が不快感を示している一方で、翔太は感情を抑え込もうとしたが、それが表情に出ていないか不安だった。


『こ、こわっ……』

翔太は石動の心の声が聞こえてきた。

(俺もまだまだ未熟だな……)


「番組ではいかにも交際関係が事実かのように言っていますね」

「も、もちろん、そんな事実は一切ないよ?」

「わかっている。大丈夫だよ」


翔太はこの場で誰もいなければ、神代の手を取って励ましたかった。

それが神代に伝わったのか、彼女は安堵した表情を見せた。


「霧島プロダクションは事実無根と否定しますが、フォーチュンアーツ(あちら)はそうはいかないでしょうね」

橘は冷静に状況を分析しているようだった。


「この狭山って人が交際宣言をするってことですか?」

「おそらく、否定も肯定もせずに、憶測が広まることを容認すると思われます」

「え、なんで?」


石動にとって、橘の発言は意外だったようだ。


「理由は二つある。一つは神代さんの人気を下げることだ」

「あぁ、なるほど……」


翔太は東郷が霧島プロダクションに何らかの攻撃をしてくる可能性を伝えていたため、合点がいったようだ。


「もう一つは狭山の人気を上げるためでしょうね」

「え、逆じゃないですか……もしかして、箔が付くってことですか?」

「おそらくそうだろうな。難攻不落だった神代さんに、ついに意中の男性が出来たということは狭山が英雄扱いされてもおかしくはない」

「くっそ、くだらないわね……」


新田は吐き捨てるように言った。

このようなスキャンダルが発覚した場合、男性よりも女性の心象が悪くなる。

この手の話題が一切なかった神代にとっては好奇や非難の的になるだろう。


「ということは、この絵を撮るために狭山は神代さんを呼び出したと……」


狭山は東郷の指示で動いていることに間違いはなさそうだ。

橘も同じ考えに至ったようで、こくんと頷いていた。


「ごめんなさい」

神代は自分の行動が迂闊だったことを後悔しているようだ。


()の名前を出されたんだから、神代さんも応じないわけにはいかなかった。

その点で言えば俺にも責任が――」


翔太は東郷との関係を神代には話していなかったが、神代は狭山の態度にそれらしきものを感じていた可能性はある。


「反省会は後ですよ」


橘に言われて翔太ははっとした。

神代が絡んでいるためか、自分が予想以上に動揺していることを実感した。


「檜垣、公式声明の発表を急いで」

「は、はい!」

「梨々花はブログにファンを刺激しないような記事を書いて。添削は私がします」

「すぐにやります!」


橘は次々に指示を出していた。


翔動(俺たち)のほうでも、できることをやるぞ」

「待ってました!」


翔太としては厄介事に巻き込んでしまった負い目があったが、石動はやる気がみなぎっていた。

新田も狭山の手口に怒りを覚えているようで、殺気立っていた。

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