第228話 狭山の目的
「ううぅっ……ごめんなさい」
白鳥ビルの会議室に合流した神代はかつてないほどに落ち込んでいた。
「申し訳ありません、私が付いていなかったばっかりに」
橘の代わりに神代に付いていた檜垣愛美が神代をフォローするように言った。
神代のマネージャーは橘と檜垣の二人で担当している。これは、橘が霧島の業務を肩代わりしている間の臨時の体制である。
神代のマネージャーは子役時代から橘が担当しており、一時的とはいえ、その神代を任されるからには相当優秀であることがうかがえる。
「とりあえず、反省会は後にしましょう。状況を教えて」
翔太は神代の話を聞くことにした。
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「梨々花ちゃん、ちょっと話せるかな」
メトロ放送のスタジオで、番組の収録が終わった狭山は神代に声をかけた。
神代主演の『ユニコーン』と狭山主演の『沈黙の証人』が話題作となっていたため、この二人が同じ番組に出演する機会が増えていた。
これまでは雫石も数多くの番組に出演していたが、今は東郷の圧力によってテレビからは干されている状況だ。
「え、でも……」
神代は檜垣の姿を探した。
彼女は狭山のマネージャーと話をしているようだ。
狭山とはオーディションの後に和解をしてはいるが、かといって積極的に話したい相手ではない。 ※1
いつもであれば橘が間に入って止めてくれていたが、その役割を担う檜垣は捕まっていた。
「話しというのは、柊のことなんだ」
「えっ!?」
狭山が切り出した内容は、神代にとって無視できない話題だった。
橘からはフォーチュンアーツの関係者に気をつけるように言われているが、もし、柊に類が及ぶようなことがあれば話を聞かなかったことを後で後悔するかもしれないと思った。
***
「柊とは中学の同級生だったんだけど、それだけじゃなくて――」
人目のない場所に神代を連れ出した狭山は、落ち着きなく周囲を窺っていた。
彼はまるでなにかを探しているように見えた。
「あ、あの……もう少し離れてもらえませんか?」
神代は柊を除いて、異性に対してのパーソナルスペースが広い。
狭山はそれをわかっていながら、近づいているようだ。
「梨々花、早くしないと次の仕事が――」
(ほっ……)
檜垣が駆けつけてきたことで、神代は安堵した。
神代は狭山に気づかれないよう、携帯電話のメールでSOSを送っていた。
だが、その時すでに狭山の目的は成功していたことを、二人は知る由もなかった。
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