第227話 船井の狙い
「くっ……そうきたか」
白鳥ビルのオフィスで翔太はインターネットニュースを見つめながら、忌々しげに言い放った。
「ん? どしたん?」
めったに見せない翔太の表情に、石動は気になって声をかけた。
「フォーチュンアーツがエッジスフィアと資本提携した」
「東郷って社長がなにか仕掛けてくるってことか?」
「間違いなく、何かをやってくる」
翔太は石動に霧島プロダクションと東郷が敵対関係にあると説明していた。 ※1
「んじゃ、役員会議だな」
翔太の発言を受けて、石動は素早く行動に移した。
***
「船井さんの狙いはさくら放送です」
白鳥ビルの会議室でいきなり結論から述べた翔太に、参加者は一様に驚きの表情を浮かべていた。
「さくら放送って『みうトーク』を流しているラジオ局か?」
「あぁ、そうだ」
『みうトーク』は長町がパーソナリティを務めるラジオ番組だ。
翔太は以前、そのラジオ番組に関連して長町にアドバイスをしたことがある。 ※2
石動もゲーム『シティエクスプローラー』をプロモーションする関係で、このラジオ番組はよく知っていた。 ※3
「そのラジオ局に何かあるの?」
新田の疑問はもっともだ。
「さくら放送はメトロ放送の親会社なんだ」
「ちょ、ちょっと待って。さくら放送のほうが全然事業規模が小さいだろ? それなのにメトロ放送が子会社なのか?」
「元はさくら放送があって、その後にメトロ放送が出来たんだ。両社は同じグループに属していて、さくら放送はメトロ放送の株式の大部分を所持している」
「ラジオの後にテレビができたんだから、順番で考えるとおかしくはなさそうね」
「新聞社がテレビ局の親会社の組み合わせもあるもんな……」
石動と新田は新しく得た知識に感心していたが、橘は翔太と同様に深刻な表情をしていた。
おそらく、同じことを考えているのだろう。
「ちょっと待て、メトロ放送より小さなさくら放送を買うことで、メトロ放送を好きにできちゃうってことか!?」
「そうなるな」
「うそん……」
「これまでは創業者の一族である逢妻家が、両社の安定株主だったので問題はなかったんだけど、現メトロ放送の刈谷社長によるクーデターによって浮動株が増えたんだ」
「つまり、さくら放送の株が買い占めやすくなったので、船井さんが動き出すかもしれないってことか」
「大体合っている」
石動は「ほえぇ、さすが船井さんだな」と言いながら感心していた。
「何で柊はエッジスフィアがさくら放送を狙っていることがわかるの?」
「この先の未来で起こることなんだよ」
「あぁ、なるほど」
「ただ、仮に船井さんが今動くとすると、俺が知っている時期より早い。
しかも、フォーチュンアーツとの資本提携は俺のときは経験していない出来事だ」
翔太は自分が未来から来た人間であることを、この場の全員が知っていることに心強く思った。
当初は誰にも打ち明ける予定はなかったが、本当に信頼できる相手と出会えたことを幸運に感じていた。
「資本提携をきっかけに、さくら放送の買収が早まるということでしょうか?」
これまで沈黙を保っていた橘が口を開いた。
「そうですね。これは想像ですが、フォーチュンアーツから大きな資本が入ったか――」
「東郷の口利きで資金調達の目途が立ったってことですね」
橘は翔太の意図を察して結論を述べた。
(加えて、霧島さんの入院を東郷がチャンスと捉えている可能性も十分にありそうだな……)
「その東郷社長はフォーチュンアーツと組んで何をしたいんだ?」
「おそらく、メディアを手中に収めて――」
翔太が言い終わる前に、橘の携帯電話に入った一報でその一端が明らかになった。
「今、メトロ放送のワイドショー番組で、神代と狭山の熱愛報道があったとの報告がありました」
※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 155話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/155/
※2 81話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/81/
※3 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 61話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/61/




