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第225話 芸能界入り

「人材の確保が喫緊の課題ですね」


霧島プロダクションの社長室では、翔太と橘によるミーティングが行われていた。

業務オペレーションの効率化について、翔太は業務内容の理解を深めるため橘から説明を受けていた。


芸能事務所は仕事の過酷さや不規則な勤務時間によって離職率が高い傾向にある。

霧島プロダクションも例外ではなく、マネージャーなどの人材が流出することが深刻な課題となっている。


「ほかの芸能事務所よりは給与を高めに設定しているのですが」


橘は眉をひそめながら言った。

(憂いを帯びた表情も絵になるな……)

事の深刻さとは裏腹に、翔太は不謹慎なことを思っていた。


「業務を効率化させることで、待遇を改善するという認識で合っていますか?」

「ええ、そうですね。とはいえ、流出してしまった人材を補充する手段も確保しておきたいです」


芸能事務所の人材流動性は非常に高い。

これは業界の人気が高く、志望者が多いことに起因している。


「エンプロビジョンはエンジニア専門ですから、ここから調達するのは無理ですね……」

「いっそのこと芸能界を専門とした人材派遣会社を買収しますか?」

「いいですね!」


翔太は目からウロコが落ちた。

翔太はIT業界が専門であることから、エンプロビジョンの人材派遣業はIT業界に限定していた。

これはエンジニアを教育し、適切な企業に売り込むためのノウハウがあるためだった。


ほかの業界に手を出さなかったのは、IT業界以外の知見がなかったことが大きな要因だ。

しかし、芸能界特有の人材採用・教育ノウハウは、霧島プロダクションが既に持っている


「霧島プロダクションが人材派遣業をする子会社を持つという選択肢もあると思いますが」

「その場合、競合する芸能事務所が使いたがらないでしょう」

「なるほど……」


橘によると、芸能事務所は常に人手不足の状態であった。

それと同時にこの業界を希望する求職者も多い。

したがって、求職者と芸能事務所をマッチングする人材派遣企業への需要は大きいと思われる。


「では、買収資金の調達は――」

「当事務所の資本が見えないほうが望ましいですね――」

「それでは――」


霧島プロダクションにおける翔太の役員としての初仕事は、深夜まで及んだ。


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