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第223話 予言

「柊さん、私からもお願いします」

「正気ですか?」


翔太は霧島と橘の表情を窺ったが、とても冗談を言っているようには見えなかった。


「私は芸能界に関してはど素人ですよ?」

「んなことはわかってる」


翔太は霧島と橘が何を考えているのか、さっぱりわからなかった。


「柊さんは夢幻でグループウェアを導入して、プロジェクトマネジメントを効率化していましたよね? あれを当事務所でも採用したいと思っています」

「ふむ、タレントのスケジュール管理などは各マネージャーの力量に依存していたからな。いいんじゃねぇか」


翔太の動揺をよそに、霧島と橘はどんどん話を進めていた。

夢幻は映画『ユニコーン』の制作会社だ。

プロデューサーの山本は翔太の意見を積極的に採用し、プロジェクト管理を効率化させていた。


「ちょ、ちょっと待ってください。たしかに人事の権限は霧島さんが持っていますが、ぽっと出てきた馬の骨が突然役員として現れたら、反発を招きませんか?」


MoGeとの資本提携があったとはいえ、霧島プロダクションの株式のほとんどは霧島が所有している。

企業の役員は株主総会で承認されるため、霧島が指名した役員は確実に承認される。


霧島プロダクション内で何も実績がない翔太が強い権限を持った役員として現れたら、事務所内での反感を買ってもおかしくはない。


「心配するな、名目は考えてある。霧島プロダクション(うち)翔動(お前のところ)で資本提携をしたい」

「なるほど」


霧島の発言に、橘は得心していた。

資本提携をした場合、相手先の企業に役員を送り込むことは一般的に起こり得る。


「キリプロさんにとって何か利益はあるんですか?」


翔動はここ最近で事業規模が急拡大したとはいえ、霧島プロダクションは翔動とは比較にならないほどの事業規模だ。

事実上は霧島プロダクションが翔動に出資することになるだろう。

翔太は霧島の意図が汲み取れなかった。


「おそらく、この先大きな金が動くことになる。その金を霧島プロダクション(うち)が動かすより、お前が動かしたほうが都合がよくなる――そんな気がするんだ」


霧島はときどき予言めいたことを言うことがある。

しかし、そのような漠然とした予感だけで、重大な決定を下してもよいのだろうか。

翔太は橘を窺ったが、彼女にはそれを問題視する素振りは一切見せなかった。


「さ、さすがに私の一存では決められないので――」


翔動の株式は石動が6割、残りは翔太が保有しており、経営の最終決定権は石動にある。

霧島プロダクションの資本が入ることで、この株式の保有比率も変化することを十分に考慮する必要がある。


「ああ、持ち帰って検討してくれ。石動はすぐにOKすると思うぞ」


霧島は予言を追加した。

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