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第216話 就任祝い

「柊はちゃんと働いていますか?」

「ええ、これ以上ないくらいよくやってもらっています」


上田は橘のおちょこに、黒村祐という日本酒を並々と注いでいた。


ここは日本橋白鳥ビルディングの商業区画、KAKUTO日本橋にある居酒屋の個室だ。

石動は接待という名目で神代と美園を呼んでいた。

マネージャーである橘と川口も同席している。

オフィスと同じ建物内にあるため、騒がれることなく移動ができた。


「私もここにいていいの?」

新田は北の錦という日本酒をちびちびと飲みながら言った。

仕事を続けたかった新田を石動が無理やり引っ張ってきた形だ。

オフィスでは、神代や美園にサインを求める従業員を他所に、新田はもくもくと仕事を続けていた。


「新田は仕事しすぎだから、ちょっとは休んでくれよ」

「新田さんのことは、柊さんから色々とお伺いしています!」


神代は興味津々で新田を眺めており、新田は戸惑いを見せていた。


「ちょっと、何を言ったのよ!」

「大したことは言っていないよ」

「柊さん、新田さんのことになるとすごいんですよ?

百年に一人の天才だとか、絶対に失いたくない逸材だとか……」

「はにゃっ」「ううぅ……」


新田は酔っているのか顔が真っ赤に染め上がっていた。

翔太も本人にバラされたことで、いたたまれなくなっている。


(それにしても、この二人が並んで違和感がないのがすごいな……)

新田の美貌は人気女優の神代の隣でも少しも見劣りせず、むしろ、コンビとして芸能界に売り出してもおかしくはないと思われるほどであった。

石動も同じように思っていたのか、ぽおぉっと二人を眺めていた。


(まさか、新田をスカウトするってことはないよな?)

翔太は橘を盗み見た。

以前、橘が鷺沼をスカウトしようとしていたことを思い出した。 ※1


『あ、あの……新田さん』

『なんですか?』

『私、年下なので敬語はいらないですよ』

『あ、そう?』

『柊さんの、()()をご存知なんですよね?』

『そうよ』

『自分で言うのも何ですが、相当信頼している相手じゃないと、柊さんが事情を打ち明けることはないんですよ』

『そうかもしれないわね……』

『あの、新田さんから見た柊さんのことを教えてくれますか?』


神代は新田と何やら話をしているようだが、翔太にはよく聞こえなかった。


「あ、あのっ! 美園さんの大ファンなんです!」

「あら、うれしいです」


エンプロビジョンの新社長となった高津は美園と話していた。

高津はエンプロビジョンで採用担当をしていた優秀な社員であったが、豊岡の解任を受けて翔太と石動が抜擢した。

この場は、高津の就任祝いも兼ねており、この場に美園がいることでその目的は大きく達成されているようだ。

※1 147話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/147/

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