第215話 陣中見舞い
「社内の雰囲気がぎこちなくなっているわね」
白鳥ビルの会議室で、上田はエンプロビジョンの雰囲気を指して言った。
白鳥ビルのオフィスフロアは、翔動の人員では余剰があるため、エンプロビジョンのオフィスと兼用している。
「まぁな……」
石動はそれを否定する材料がなかったため、同意するほかなかったようだ。
その原因は翔動の子会社、エンプロビジョンの社長である豊岡がクーデターを起こしたためだ。
豊岡はエンプロビジョンの役員でもある翔太と石動の影響力を削ぐために、業績のデータやハラスメント行為を捏造し、これを告発する怪文書を翔動以外の株主にメールで送っていた。 ※1
この動きを察知していた翔太は、第三者機関である法律事務所に調査を依頼し、豊岡の告発内容が虚偽であることを証明したり、エンプロビジョンの株主からエンプロビジョンの株式を買い取ったりと、対策を取っていた。
この結果、翔太と石動は豊岡を解任した。
豊岡の解任はエンプロビジョンの従業員に動揺を与えることになった。
翔太自身もグループ会社の社長の造反と、それを収束に至る過程で、精神的な疲労を感じていた。
「実は社内の雰囲気を改善する手がある」
「うそん」
信じられないといった表情の石動を尻目に、翔太はメールを確認していた。
「お、ちょうど来たみたいだ」
現れた人物を見て、石動と上田は目を丸くしていた。
***
「ざわ……ざわ……」
白鳥ビルのオフィス内はかつてないほどざわついていた。
「えー、ユニケーションでは皆さんご存知のように映画『ユニコーン』とのコラボレーションをしていますが――」
オフィスでは石動が翔動とエンプロビジョンのスタッフを集め、校長先生のような挨拶をしていた。
しかし、誰も石動の話は聞いておらず、横に立っている二人の人物に視線が集まっていた。
「えーっと……もういいや、では自己紹介をお願いできますか?」
石動は諦めて、話を切り上げた。
「女優をしている神代と言います。今日はユニケーションを支えている皆さんの活躍をブログで紹介したいと思い、お話をお伺いに来ました」
「え? 俺、くまりーに取材されるの?」「くそー、もっといい服着てくればよかったよぉ」
オフィス内がさらにざわついた。
(よもやエンプロビジョンの買収にこの人が関わっていたなんて、誰も思わないだろうな……) ※2
「えっと、同じく女優の美園です。私は……」
美園は言いながら、目線が明後日の方向に向かっていた。
(さては何も考えていないな……)
「正直に言います。遊びに来ちゃいました!」
「ぐはっ!」
美園は「てへっ」と舌を出し、照れ笑いを浮かべながら言った。
この仕草は一部の層に見事に刺さっていたようだ。
※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 141話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/141/
※2 136話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/136/




