第214話 大義名分
「そんな……」
翔太が語った未来の惨状に神代は言葉を失った。
「仙石線で怖い顔をしていたのは、これが原因だったのね」
(顔に出てしまっていたか……俺もまだまだな)
「津波の影響で、あの野蒜駅はなくなってしまうんだ」
野蒜駅は奥松島・野蒜海岸の観光開発のために設置された。
津波の被害を受けて、仙石線の内陸移設に合わせて新駅舎に移転している。
「そのことが、柊さんのお仕事が忙しくなっていることに関係しているのですか?」
「それはちょっと買い被りすぎですよ」
「どゆこと?」
神代は首を傾げた。
「このことは石動にも話したんだけど、被害を最小限にするために何かできないかを考えたんだ」
「柊さんと石動さんなら、そう考えるよね」
「俺はそこまで利他的な人間じゃないよ。現に、仙石線に乗るまではそこまで何かやろうと思っていなかったし」
これ以上個人的な事情で神代を心配させたくなかったため、福吉のことは伏せた。
「これだけの大規模な災害になると、人・物・金を動かせる大きな力があったほうができることが多いんだ」
「それはそうよね……」
神代は考え込む仕草を見せた。
おそらく、自分に何ができるかを考えているのだろう。
「それで、きっと橘さんは、俺がその力を得るために色々がんばっているんじゃないかと思ったんだよ」
「そうなんじゃないんじゃないの?」
神代の黒曜石のような瞳が、じっと翔太を見つめていた。
「今の組織を大きくしようとしているのは事実だけど、今忙しいのはたまたまだよ」
「本当にぃ?」
「石動は俺と出会ったことで、世界をとろうとしているんだ。
俺は石動の野望に何となく加担していたんだけど、震災をきっかけに俺も本腰を入れたというのはある」
「ほへぇ、石動さんにそんな野望があったんだね。信長みたい」
「あいつは人参のついでに大根を買うようなノリで言い放ったんだよ」
神代は「ほえぇ」と言いながら、翔太が石動と出会った頃の話を聞いていた。 ※1
「そのためには、最短距離を走る必要があって――」
翔太は次の言葉を探しながら、一瞬言葉を詰まらせた。
ドロドロした社内政治の内幕を明かしたところで、暗くなるだけだろうと思われたからだ。
「大丈夫だよ。映画にもそういう場面あったでしょ?」
神代は翔太の状況を何となく察しているようだった。
(段々、橘さんみたいなエスパー力が付いてきたな……)
「ま、でもこれで大義名分ができたね」
「ん?」
晴れやかに言った神代に対して、翔太はさっぱりわからなかった。
橘は「好きにしなさい」というような表情をしている。
「私が友人という理由で柊さんにしてあげられることは限られるけど、多くの人命を救うためなら、もっと色々できるんじゃない?」
※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 4話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/79/




