第213話 翔太警察
「ふぃー」
美園や川奈が帰った後も、翔太はグレイスビルで仕事をしていた。
日付はとっくに変わっており、辺りはひっそりとしていた。
「柊さん、まだ終わらないの?」
神代はソファーに座っていた翔太の隣に座った。
翔太と川奈は後片付けをするつもりであったが、神代と橘が代わりにやると譲らなかったため、翔太は仕事の続きをしていた。
(こんな綺麗な格好で、洗い物とかしていたのか……)
翔太は改めて神代の美しさに魅了されていた。
神代とは何度となく会っているが、会うたびに新たな魅力を発見してしまい、心拍数が上がっているのを自覚した。
「あと少し……で終わるような気がする」
「もう……」
神代はコテンと翔太の肩に頭を乗せていた。
最近の神代は、周りの目がなくなると、このような行動に出ることがある。
クランクアップのイベントでは大勢を相手にして疲れていたのだろうと思い、翔太は気にせずそのまま作業を続け――
気にせず……は無理であった。
アップヘアから覗く普段は見えない首筋や、ドレスの露出した部分が気になり、気がつけばキーボードをタイプする手が止まっていた。
「柊さん、仙台でなにかあったでしょ?」
「ふえっ!」
翔太は神代がどのことを指しているのかが、分からなかった。
いずれにせよ、今の反応で何もなかったと言うのは無理がありそうだ。
「柊さんのことは、私が一番よく見ているんだからね。ごまかせないよ?」
神代の観察力は折り紙付きだ。
特に翔太のことであれば、対抗できるのは橘や石動くらいだろう。
「ひょっとして、実家で何かあった?」
「あったと言えばあったけど、両親と揉めたとかじゃないよ」
翔太は答えに窮した。
東郷とのことを話すのは容易いが、橘の反応を見る限りだと、神代の前ではまだ話さないほうが賢明のように思われた。
「あら? どうしました?」
妙にエプロン姿が似合っている橘が現れた。
未来では『童貞を殺す服』というインターネットスラングが流行った時期があったが、今の神代と橘の服装は『翔太を殺す服』だ。
(うええぇっ!?)
橘は神代の体勢を見咎めるどころか、翔太の反対側に座ってきた。
二人から伝わってくる体温や魅惑的な香りが、翔太の脳内麻薬を分泌し、多幸感でどうにかなりそうだった。
(柊翔太のことは置いといて、将来起こることは共有しておくか)
「実は――」
翔太は意を決して話し始めた。




