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第212話 クランクアップ

「もー、なんで来なかったのよー!」

グレイスビルの休憩室で、美園は駄々っ子のようにぶーたれていた。


「いゃ、仕事だし……」

翔太はその回答しか持ち得なかった。


映画『ユニコーン』は無事にクランクアップし、セレモニーや打ち上げパーティが行われていた。

プロモーションイベントなどが奏功し、スポンサーが増えたことにより、クランクアップには大勢の関係者で盛り上がっていたようだ。


翔太は脚本の監修をしており、翔動がスポンサーとなっているため、セレモニーやパーティに招待されていたが参加できなかった。

これは多忙を極めていた石動も同様であった。

翔太が仕事が忙しかったこともあるが、きらびやかなパーティの場に、自分が居合わせることへの違和感を覚えていた。

仮に仕事がなくても参加は見送っていただろう。


現在はパーティの二次会が行われているようだが、神代と美園は参加しなかったようだ。


「主演女優と助演女優がここに居ていいの?」

二人は翔太がグレイスビルにいることを聞きつけ、二次会の参加を辞退してここに来たようだ。

翔太は申し訳無さを感じると同時に、余計な情報を与えたことを後悔した。


「もう義務は十分に果たしたよ」「私も……」


神代と美園は着替える時間もなかったのか、ドレス姿のままだった。

二人とも露出が多く、見事なプロポーションが際立ち、画家や写真家が見たら大枚を叩いてでもモデルをお願いするだろう。

このような格好では、近づいてくる男性が絶えず、声をかけられて困っていることはなんとなく想像がついた。

(そりゃ、疲れるよな……)


***


「かんぱーい!」

グレイスビルの休憩室では、こじんまりとした映画の打ち上げが開催された。


「みなさんおつかれさまでした」

霧島プロダクションの仕事が溜まっていた翔太であったが、それを切り上げて出演者を労っていた。


「悪いな柊、手伝ってもらって」

「川奈さんこそ、よかったんですか?」

「俺はチョイ役だからいいんだよ」


川奈が軽食を作り始めたので、翔太はこれを手伝っていた。

川奈も映画の出演者であるため、休んでほしいと思っていた。

(ここで料理するのも久しぶりだな……)


「柊さん、すみません。お仕事の邪魔をするつもりはなかったんですが」

「いぇ、俺も休憩しようと思っていたところなので」


翔太は咄嗟に取り繕ったが、橘の前では意味をなさないだろう。


「柊さんが来なくて、がっかりしていた人がいっぱいいたよ。特に山本さんとか」

「そういえば、雪代さんも露骨にがっかりしていたわね」

「あーっ! そういえば、すごく着飾っていた」

「「じとーっ」」

「なんだよ?」


翔太は謂れのない非難を受けている気がしていた。

その様子を橘と美園のマネージャー、川口は微笑ましいそうに眺めていた。


「そんなに忙しいの?」

美園は身を乗り出して翔太に尋ねた。

(ち、近い……その格好でこの距離はマズイ……)


「オフィスが移転したり、ちょっと社内がごちゃついてね……」

翔太は目をそらしながら答えた。


翔太と石動は社内政治のゴタゴタを処理していた。 ※1

発生した問題は肉体的な疲労よりも、精神的な側面で堪えていた。


「「……」」

神代はそれを見越したのか、心配そうに見つめてきた。

橘は表情には出さないものの、雰囲気からそれを感じ取れた。

(もう、この二人には嘘が付けないんじゃないのか……?)


「新しいオフィスはどうなの?」

「キレイでいいところだよ。うちみたいな零細企業にはもったいないくらい」

「じゃ、今度見に行っていい?」

「え? ただのオフィスだよ?」


神代と美園がキラキラした目で見つめてきた。

ユニケーションのプロモーションに大きく貢献した二人の頼みを断る理由が見つからなかった。

(しかし、二人が来ると社内が大変なことになるぞ……)

※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 141話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/141/

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