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第210話 入れ食い

「もう入れ食いよ」

翔動の新拠点となった白鳥ビルで、上田は上機嫌だった。

このビルが翔動の新たな本店所在地となる。


翔動は設立以来、登記上の本店所在地は石動の自宅であった。

執務スペースとして、貸会議室やマンスリーマンションを利用していたが、事業所として登記することはできなかった。

翔動は初めてまともな事業所を得たことになる。


「そんなに来てるのか?」

翔太が半信半疑で上田に尋ねた。


オフィス空間が急激に増えたことにより、翔動のスタッフだけでは余剰ができたため、子会社のエンプロビジョンも白鳥ビルに移転した。

上田によると、そのエンプロビジョンに入社希望者が急激に増えているとのことだった。


「アクシススタッフから流れてきているってことだよな」

翔太は田村の情報から推測して言った。


「そうよ、子会社に行きたくないってプライドがあったかもしれないけど、立地がよくなったから抵抗がなくなったと、私は見ているわ」

「どうせ客先に常駐するのにな」


翔太にとって、報酬と待遇さえよければ会社名はどうでもいいと思っているため、この感情は理解し難かった。


「立地に加えて、石動がテレビに出た影響だと思うけど、色々な会社から入社希望者が増えているわ」

「んんー……やはりメディアの影響は大きいのか……」

「なんで柊ががっかりしているのよ」


翔太の心境は複雑であった。

エンプロビジョンの事業が拡大するのは大変好ましいが、翔動としてはインターネットの影響力を高めていく戦略だ。

この時代においては、圧倒的にテレビや新聞などの既存メディアの影響力が強いままであることを痛感させられた。


「あれ? アクシススタッフから転職希望者が多く来てるってことはまさか……?」

「そのまさかよ」


***


「なんか久しぶりだねー。元気でやってた?」

そう言った田村は少なくとも外見上は元気であった。


上田は田村を白鳥ビルの会議室に呼び出した。

田村は「でっかいビルだねぇ……」としきりに感心していた。


「忙しくてボロボロだよ……」

翔太は仙台でリフレッシュできたものの、仕事は多忙を極めていた。


(肉体が若いのが救いだったな)

石動景隆だった頃の体ではこの激務に耐えられなかったかもしれない。


「で、田村はアクシススタッフを辞めたいの?」

上田は単刀直入に切り出した。


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