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第21話 タメ口

「――なるほど、お話はわかりました」


「はぁ」とため息をつきながら橘は説明した。

「まずは、オーディションとブログの優先順位ですが、柊さんにはオーディションを優先するように伝えています」

翔太が頷く。


「ですが、ブログについては鈴音が言うように、オーディションに影響がない範囲であれば、柊さんの協力を仰いでも問題はありません」

「へっへーん」と星野が得意げな表情になる。


「これをきっかけに、いくつか()()が来ているため、社長もブログを高く評価しています。

当事務所としてはメディア戦略として、引き続き活用していく方向で考えています」

それは翔太も初耳だった。

報酬分の最低限の仕事はできているようなので、ひと安心した。


「次に、敬語の件ですが――梨々花、あなたはどうしたいの?」

神代がびくっと反応した。

なにやら葛藤があるようだ。


「わ、私も柊さんには敬語なしで話してほしいです!」

神代は今日一番の真剣な眼差しで言った。


「鈴音のマネージャーである川嶋さんは、鈴音に対して敬語を使っていませんよね?」

「そだよ」と星野が答える。


「彼女は柊さんと同様に、人材派遣会社に所属している人員です。

こういう業界ですから、言葉遣いに対しては制約は特にありません」

神代の表情がぱぁっと明るくなった。


「柊さんの会社はいかがでしょうか?」

橘の問いに翔太が答える。

「礼儀やマナーを徹底するように教育はされていますが、雇用契約上は特に規定されていません。

顧客によって様々ですが、出向先の年下の社員に対して敬語を使わないケースはあり――」


「ということは、私のお願いは聞いてくれますか?」

神代が食い気味に聞いてきた。


上目遣いにまっすぐ翔太を見つめている。

(ち、近いし……その表情はずるい……)


「そ、それは橘さん次第でしょうか……」

「しょうたん、逃げたなw」


「柊さんの言葉遣いは、やや丁寧なので、敬語をやめていただくことで情報伝達が早くなることが期待できます。

柊さんなら、礼を失することはないでしょうし――」

「じゃあ、問題ないってことですね!」

神代は一瞬で晴れ渡った青空のような表情になった。


「条件が二つあります」

翔太は観念したように言った。

「一つは、実情を知らない外部の人がいた場合は、これまでと同様です」


「はい、二つ目はなんでしょうか?」

神代が急かすように聞いた。


「神代さんも、私に対して敬語をやめることです」

「――えっ?」

速射砲のように話していた神代の勢いが止まった。


『でも……そうすると私がは……なってしまうし……』

神代は小声で自問自答している。


「梨々花、あなたは女優なんだから感情のコントールができないなら、この件は諦めなさい」

橘は突き放すように言った。

翔太にはさっぱりだが、橘はなにかを察しているようだ。


「だ、大丈夫です!

し……柊さん、今後ともよろしくね」

「あぁ、よろしく」

二人は握手した。


「なんじゃ、結局さん付けかいな」

ちゃかすように言った星野に対して神代が反撃する。

「そういえば鈴音はどうしたいの?」


「――へ?」

星野は虚をつかれたような表情になった。

「 鈴音は ()()()()()()()()と言ったのよ、権利を行使するかどうかは柊さんが決めることになるよね?」

「あっ!」


「柊さんに権利を行使してほしいなら、お願いしないといけないんじゃないかしら?」

「ぐぬぬ……」

今度は星野が地団駄を踏みそうな表情になり、神代はご満悦だ。

(こ、こえー……笑顔が怖い)


「しょうがないなぁ権利を行使してやるよ、星野さん」

「おまえもさん付けかーい!」


***


「作業中すいません、柊さん、あの二人の会話、どう思いました?」

休憩室で作業を続けていた翔太に、橘が声を掛けて座った。

二人はいつものソファーで並んで座っている、深夜によくある光景になりつつあり、星野にからかわれる要因にもなっている。

神代と星野は帰宅している。


「途中まで星野さんが優勢でしたね。」

橘がいなかった状況を伝えた。

「オーディションではプレゼンの後に、質疑応答もあるかもしれないと思うと、年下の小娘に言い負かされてるようでは……」

珍しく橘は弱気になっている。


「彼女はあの若さにしては聡明なので、そこは割り引いてあげてもいいかなと思います。」

「ふふふ、年齢に関してはあなたも大概ですけどね」

(あなたも大概ですよー)

心の中でブーメランを投げた。


「ディベートの訓練をするのもありですが、どうせなら本番に近い状況を作り出すのもありかもしれませんね。

突拍子もないアイデアなので、話半分に聞いてほしいのですが――」

「――え?さすがにそこまですると、霧島の許可が必要ですね」

「まぁ、思いつきなので、本気にしないでください。」

「柊さん、あなた何者なんですか……」


深夜のグレイスビル、その中でも二階だけがひっそりと煌めいていた。

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