第208話 勘
「普通の会社員です」
翔太は『皇将』という人物の人格の定義を考えた。
彼は今後登場する予定のない存在であったが、実際に今ここに存在している。
そのため、社会的な立ち位置を確立しておく必要がありそうだ。
皇は翔太と同時に存在しない排他的な関係にあるため、翔太と同等の立場を与えておけば動きやすいと考えた。
「石動は覚えていますか? その石動が経営している翔動という会社に所属しています」
「ええ、もちろん覚えています」
二宮が関わったドキュメンタリー番組では、神代とサイバーフュージョンの上村、そして石動の対談企画があり、二宮と石動は面識があった。 ※1
「神代さんとは、翔動さんのお仕事をきっかけにお知り合いになられたのですね」
「そんなところです」
皇の誕生 ※2 は翔太が石動と出会う前であったが、そんなことは些事であると判断した。
「神代さんは、女優として活動をしている間、男性と距離を取っていることはご存知ですか?」
「はい、伺っています」
僅かの期間であるが、二宮は仕事に妥協を許さないタイプであることを翔太は把握していた。
取材対象の人物も入念に調査していたのだろう。
翔太は詮索しなかったが、神代の過去の事情にも詳しいかもしれない。
「その神代さんが、皇さんだけには親しげに接しているんですよ。不思議だとは思いませんか?」
「はい、不思議ですね」
翔太には二宮の質問の意図が掴めなかった。
下世話な詮索をしたり、それを報道するつもりなら、彼女は翔太と敵対関係になるだろう。
「えっと、誤解してほしくないのですが、私は皇さんと神代さんが交際しているとは思っていませんし、それを追求するつもりは全くありません」
「そうですか」
翔太は安堵した。
「わたしが下世話な話題を好むなら、石巻であっさりと撤収したりしませんよ」
「あのときは助かりました」
神代は、翔太が二宮と個人的に会ったことを、快く思っていなかった。
あのときに二宮が引いてくれなければ、後々に禍根を残すだろう。
(今の状況がバレてもマズイんだけどな……)
「ちなみに、あのときの皇さんはデートではないと思っています」
「何か根拠があるんですか?」
「勘です!」
(勘かよ!)
二宮はテレビの視聴者には向けないような、いたずらっぽい笑顔で言い切った。
今のところ、二宮は皇の素性を把握しているわけではなさそうだ。
調査機関まで利用する雫石のほうが異常である。
とはいえ、翔太は勘だからといって油断できないと感じていた。
何しろ前例があり、その勘によって皇の素性は看破されたのだ。 ※3
「話を戻しますが、これまで世の中の男性が誰もなし得なかった神代さんの信頼を勝ち取った皇さんという人物に、私は興味が湧いてきたんです」
「一介の会社員に過大評価じゃないですか?」
「いえ、私の勘が皇さんは只者ではないと言っています」
(また勘かよ!)
※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 112話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/112/
※2 70話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/70/
※3 146話 https://ncode.syosetu.com/n8845ko/146/




