第207話 テイク2
「なんでこんなことに……」
高層ビルの最上階のレストランで、翔太は窓の外を見下ろしながらつぶやいた。
窓の外は煌めく夜景が一望でき、街の明かりが美しい光のカーテンのように輝いていた。
「どうですか、皇さん? ここの夜景は絶景ですよ?」
アルカイックスマイルを浮かべた二宮は、スパークリングワインを片手に翔太を覗き込むように言った。
翔太はこの場にいる発端となった出来事を思い出した。
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「あら? 皇さん?」
「二宮さん?!」
石巻のサン・ファン館で、翔太は思わぬ人物と遭遇した。
「どうしてここに?」
「それは私のセリフでもありますが……私は石巻に取材があったのでついでに立ち寄ったのです」
(こういう取材は地方局のアナウンサーがやるんじゃないのか?)
業界知識が乏しい翔太は、そう言われたら受け止めるしかなかった。
人気のキー局のアナウンサーという抜群の知名度と、卓越した容姿に周囲からの視線が集まっていた。
「あれって、二宮アナだよね?」
「イケメンとデートしている?」
好奇な目で見られており、翔太は居心地が悪かった。
反面、二宮は一向に気にした様子は見られなかった。
「それで、皇さんはデートですか?」
「はい、そうです」
翔太は二宮の憶測に乗っかることにした。
状況的にはデートと言えなくもない。
この状況で神代と美園と鉢合わせたら、とんでもなく面倒なことになることが容易に想像できる。
今は彼女らが戻ってくるまでに、このピンチを凌ぐ必要がある。
「なので、その――」
「私がいると都合が悪いということですね?」
二宮は言いにくいことを代弁してくれた。
「私もお相手のかたに興味があるのですが、ご挨拶させていただけないでしょうか?」
「いゃ、それは……」
「ふふ、冗談ですよ?」
翔太は完全に手玉に取られていた。
「すぐに退散してもよいですが、条件があります」
「一応、お伺いします」
「以前の約束を果たしてください」
皇の姿で二宮と会食した際、会計は翔太持ちとなった。
このお返しとして、二宮から「今度は私に奢らせてください」と言われていた。
翔太は皇の姿で彼女と会う可能性はないと考えていたため、完全に忘れていた。
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「皇さん、あなたは一体何者なんですか?」
二宮はいきなりぶっこんできた。




