第206話 厄災
「無事に終わってよかったよ」
マンスリーマンションの一室で、翔太は景隆の報告を受けていた。
翔動は白鳥不動産の子会社、SREテクノロジーズからヘルプデスクシステムの開発を請け負っていた。 ※1
納期三ヶ月のこの案件を、新田の発案から一週間で終わらせていた。
翔太はこのシステムの納品や検収を石動に任せたまま、仙台に行っていた。
「ここに居られるのもあと少しだな」
「そうだな……」
白川と白鳥の父、詮人から、白鳥不動産が所有する『日本橋白鳥ビルディング』のオフィスフロアを使うことの打診を受けていた。
一等地であり、家賃は高額であることが容易に想像できるが、白鳥不動産の仕事を請け負うことで、その家賃と相殺するという破格の提案を受けていた。
その仕事はSREテクノロジーズとの協業であるが、SREテクノロジーズの社長である安堂が難色を示した。
その安堂を納得させるために、ヘルプデスクシステムの開発を超短期間で完了させていた。
石動の報告によれば、日本橋白鳥ビルのオフィスフロアを翔動の新拠点として使えることが決定していた。
***
「ふむ、データインテリジェンス統括部か」
データインテリジェンス統括部は、白鳥不動産のデータ駆動型の意思決定を推進する部門として、新設される。
社内ではData Intelligence Divisionの略である『DID』と呼ばれるようだ。
「そのDIDのシステムをSREテクノロジーズが請け負うんだ」
「翔動はSREテクノロジーズの下請けってことになるのか?」
「いゃ、白鳥不動産――DIDから直接受けることになる。
システムの設計方針などのアドバイスがほしいらしい。
開発に加わることもあるかもしれないが、その場合は三社契約だ」
「なるほどな……」
詮人は以前に白鳥邸で翔太が話した内容を評価してくれているようだ。
翔太が知っている未来の出来事や、データ分析の経験などを提供すれば、一定の成果を上げることは可能であろう。
「加えて、今後起きるかもしれない、金融危機の対策をしておきたいそうだ」
「まぁ、そうなるよな」
数年以内に起こる金融危機に対して、今から備えることで影響はかなり軽減されるだろう。
不動産業界において対策できることは色々と考えられる。
「ん? どしたん?」
石動は、柊が神妙な顔をしていることに気になったようだ。
「金融危機とは別に、日本ではもう一つ危機的な状況が起きるんだ」
「えええっ!?」
翔太は仙石線からの光景を思い出した。
将来起きる惨状に対して自分が出来ることは――
「福吉は覚えているか?」
「あぁ、大学の同級生だろ?」
福吉は石動景隆の大学時代の同級生であり、共に囲碁サークルに在籍していたこともあり、交流が深い友人関係にあった。
「その危機で亡くなっているんだ」
「えええええっ!?」
***
「マジか……」
この先に起こる東日本大震災の被害規模に、石動は言葉を失っていた。
翔太と石動は今後訪れる2つの危機について話し合った。 ※2
※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 122話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/122/
※2 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 133話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/133/




