第204話 バタフライエフェクト
「なんか、地味ね」
美園は青葉山公園の仙台城跡を見て言った。
神代と美園は仙台のロケを終え、翔太と仙台城を散策していた。
翔太は皇に化けている。
神代は翔太が初めて遭遇したフリーターバージョンに変装し、美園も同じように派手な格好をしている。
二人の明るい茶髪と金髪の姿は、その美貌と相まって周囲の雰囲気とは異彩を放っていた。
(一番、バレにくいようにしたんだろうけど、やたら目立ってないか?)
「天守閣がないからかな?」
天守閣は天守の俗称だ。
日本の城において天守は必須の要素ではなく、城主の権威を示す建築物とも言われている。
「なんでないの? あったほうが城っぽいのに」
「家康に野心がないことを示すためとか言われているけど、そもそも必要がなかったという説もある」
「なんで?」
「立地的に天然の要塞になっていて、攻められにくいとか、見晴らしがいいから高い建造物が必要ないとかだったかな?」
翔太と神代が美園の疑問に答えていった。
神代のたっての希望で訪れていたが、美園の反応は至って普通だった。
標高130mの小高い山からは、仙台の中心街や仙台湾が一望できる。
南側には標高差70mの断崖絶壁の竜の口渓谷があり、当時は八木山橋がなかったため、ここからは外敵が侵入できない構造だ。
「むー、美琴は青葉城のよさがわかっていない!」
『青葉城』は仙台城の雅称だ、神代は何やらこだわりがあるようだ。
「私も歴史を全く知らないわけじゃないけど、この城で戦いはなかったのよね?」
「まぁ、戊辰戦争でも戦場にはならなかったね」
「このままだと、伊達政宗のすごさが伝わらない……」
神代は謎の使命感に燃えていた。
「もっと……わかりやすい……そうか! 国際的な活躍が――」
「リカさん、まさか……」
神代は変装しているため、翔太は『リカ』呼びにしている。
美園に対しては『美琴』呼びを強制された。
「サン・ファン・バウティスタ号を見に行くよ!」
「行動力……」「?」
この神代の思いつきが、後に、多くの人命を救うことになる。
***
「どこに向かっているの?」
仙石線の車中で美園は二人に質問した。
「石巻だよ」
「港町の?」
「そうだよ、サン・ファン館があるんだ」
褐色の肌で派手な格好をした美女二人に、イケメンに扮装した翔太が挟まれている構図は、否が応でも目立った。
乗客からチラチラと寄せられる視線に、翔太は落ち着かなかったが、神代と美園は平然としていた。
(せめて、もう少し距離を……)
二人は翔太にピッタリと寄り添って座っていた。
「この仙石線はね、日本で最初の地下路線なんだよ」
「東京の地下鉄よりも先ってこと?」
「またマニアックな知識を……」
翔太は人生経験が長いため、それなりの知識を持っているつもりであったが、神代の情報源は謎であった。
インターネット百科事典は、この時代でも存在していたが、情報量は未知数だ。
***
「の……の……」
美園は『野蒜』と記載されている文字を読もうと奮闘していた。
「『のびる』だよ、奥松島駅に改称する動きもあったみたい」
「また、無駄な知識を……って、どうしたの皇さん、怖い顔しているけど?」
二人は翔太の深刻な表情に驚いていた。




