第200話 卒業アルバム
「どうして、そう思うの?」
昌子の表情は努めて平静を装っているようにも見えるし、実際にそうなのかもしれない。
「蒼さんのお仕事が、芸能界と関わっているので、この業界に興味を持った可能性があると考えました」
翔太は事前に用意した当たり障りのない理由を説明した。
「うーん……翔太はあまり自分のことを言わなかったんだよ」
翔平が発言している様子を、翔太は注意深く観察していた。
特に嘘を言っているようには見えなかったが、翔太に神代ほどの観察力は持ち合わせていなかった。
***
「んー……あるとしたら……本棚だろうな」
翔太は柊翔太の自室で探し物をしていた。
翔太は両親からこれ以上の情報を得ることを諦めた。
しつこく食い下がれば何らかの情報を引き出せるかもしれないが、そのことで別のリスクが出てくる可能性があったためだ。
柊翔太の部屋を探索することは、誰も傷つくことはないと判断した。
「あった!」
翔太は柊翔太の中学の卒業アルバムを見つけた。
翔太が疑問を持つきっかけとなった出来事は、狭山と初めて会ったときの発言だった。
←←←
『狭山だよ、中学の同級生だっただろ?
まぁ、お前にとっては思い出したくないかもしれないけどな』
→→→
(中学校を卒業してから一度も会っていない人物が、社会人になった状態で、その相手がわかるだろうか?)
石動景隆であった頃、中学校の同級生と卒業後に交流があったのは柔道部の仲間くらいであった。
それ以外の中学の同級生に社会人になってから再会したとして、顔を見たら思い出すことができるかは疑問であった。
(俺が年を取ったから、余計に思い出せないのかもしれないが……)
狭山と遭遇したとき、彼は落とした名刺を見て、柊翔太であることにすぐに気づいていた。
久しぶりに会ったにしては、思い出すまでの時間が異常に短く感じていた。
柊翔太は年齢の割にやや童顔な顔立ちをしているため、中学時代と顔がさほど変わっていなければ、狭山の反応に得心がいく。
翔太は逸る気持ちを抑えながら、卒業アルバムをめくった。
「えっと、柊翔太……柊翔太……おや?」
翔太は先に狭山を発見した。
狭山の本名は予め調査済みであった。
「まぁ、狭山のファンが見たらすぐにわかるレベルだろうけど……」
翔太は狭山の本名を知らなかった場合、写真の少年が狭山であることに気づける自信はなかった。
少なくとも、狭山の中学の同級生という証言が事実であったことと、三年生の時点では、柊翔太と狭山は同じクラスではないことが判明した。
「柊翔太……いた!」




