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第2話 リハーサル

「た、大変失礼いたしました。

()()()()さん。僭越ながら本日は講師の演技について、弊社の講師と同様の振る舞いをしていただくようにお願いする立場で参りました」


資料には翔太の役割は演技指導と書いてあったが、最初の印象を悪くしてしまったので回りくどい言い方になってしまった。


「ということは、柊さんが私の先生ですね!」


名前を、よりにもよって講師役の名前を間違えて大失態を犯してしまった翔太と対照に、神代は泰然としている。さすが演技のプロといったところだろうか。

こちらの失態をフォローしてくれているのか、ニッコリと微笑んでいる。


「では、私はどうしても外せない仕事があるので、一旦ここで失礼させていただきます。

柊くん、また戻ってくるけどそれまでよろしくね」

「はい、ありがとうございました」


水口はスタジオを辞した。


翔太の役目が水口ではなかった謎が解けた。

おそらく、今日来られなかった田村の仕事もこなしていたので、ギリギリまでいてくれたのだろう。

(改めてお礼しないと)


翔太はスタッフ関係者との挨拶を交わし、神代への演技指導が始まった。


「神代さんが大変多忙だとお伺いしておりますので、要点だけ手短にお話します。

ご不明な点があれば、遠慮なく割り込んでいただいて構いませんので、いつでもお申し付けください」

「はい、それで構いません」

「台本の内容は把握されているようなので、その中でも気をつけるポイントを申し上げます」


講師用の社内マニュアルがあるが、これは社外秘なので、マニュアルの内容を台本に沿って伝えていった。

IT業界には関わりがないと言ってた神代だが、飲み込みが非常に早く、同僚に説明しているような感覚だった。


「では、リハーサルを始めましょう」

ディレクターの澤井の合図でリハーサルが始まった。

神代の演技は一言でいうと圧巻だった。

本業の講師でもここまで堂々と教えられるのは、翔太が把握している範囲でも片手で数えるほどもいないのではないか。


この時代においては、仕事や趣味以外でPCを持っている人のほうが少ない。

しかし、それにも関わらず、神代はキーボードを熟練した手つきで操作しながら講義を行っていた。個人的にもPCを普段から使っているのだろうか。

彼女の講義時に、操作画面は予め録画したものを使っているため、やってることは音楽におけるエア演奏に近いが、それにしても――


***


「くまりー、すごく良かったよ!柊さん、どうでしょう?」

(くまりーは神代さんの愛称だろうか?)


ご機嫌な澤井はそう言いつつ、スタッフたちの目線は翔太集中し、コメントを待っている。

その中でも、神代はものすごく真剣な目で翔太を見つめてる。


自分の役割もあり、神代のことをずっと見ていたが、こんなに真剣な表情は初めて目にした。

演技に慣れてはいても、第三者の評価は気になるのだろうか。

(ここからが本当のがんばりどころだな……)


翔太はしばらく考慮した後、口火を切った。

「神代さんの講義は大変すばらしかったです、弊社の講師陣でもここまで淀みなくできる者はそうそういません」

神代は緊張がとけたのか、ほーっと胸をなでおろしている。

「それを踏まえてなのですが、台本を少し変えることは可能でしょうか?」


スタジオがピリッとした空気になったが、気にせずに続ける。

「これは弊社にとって大変ありがたいことなのですが、おそらく神代さんは講義で使うソフトを使いこなせるように、何度も練習していただけたのではないでしょうか?」

(神代さん、びっくりしたように俺を見てるけど、間違ったか?)


内心動揺した翔太であるが、それを表には出さずに続ける。


「操作画面はあらかじめ撮ったものを流していますが、神代さんは講義内容に沿って実際の講師と同等に操作ができているので、画面は神代さんが操作した画面を使ったほうが、より臨場感がでると思います。

澤井さん、そうなった場合に画面の差し替えは可能でしょうか?」

「だそうだけど、柳田くんできそう?」

「はい、問題ないです」

制作スタッフの柳田が答える、ここまでは問題なさそうだ。


「熟練した講師――例えば先程までいた水口は受講生の反応をみながら話しつつ、そのタイミングで最も適切な画面を出せるような操作ができます。

当初よりも相当高いレベルの演技になりますが、リハーサルを拝見して同等の演技が神代さんならできると判断しました。

お時間が限られている中で、大変難しいことを言ってることは重々承知のうえでのお願いになりますが、神代さんいかがでしょうか?

もちろん、操作のタイミングなど、細かいところは私が指示します」


ずっと驚愕と言っても差し支えない程の表情をしていた神代が、翔太が話し終えると、生まれて初めてサンタクロースからプレゼントをもらった子供のように輝いた表情で答えた。


「はい!ぜひやらせてください!」

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サンタは実在します!毎年フィンランドからやってきます!
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