第195話 吐露
「うわー、壮観ですね」
神代は東北先端科学大学の計算機センターにずらりと並んだワークステーションに感嘆していた。
「これらの端末から、サーバーにアクセスできます」
教授の飯盛は映画関係者に計算機センターの設備を説明していた。
ここでは映画の撮影が行われる予定であり、現在は関係者が下見を行っている。
人気女優の二人が訪れていることもあり、学内の雰囲気は浮ついている。
室外の廊下は見物人で溢れかえっていた。
「ね? 柊さんも学生時代はここを使っていたんでしょ?」
「そ、そうだね……あまり使っていなかったので、詳しくは覚えていないけど……」
美園の質問に対する翔太の返事は歯切れが悪くならざるを得なかった。
(俺も初めてここに来たとは言えないからなぁ)
「サーバールームと部屋が別なんですね。そうなると元の脚本からは――」
「そうですね、この部屋のほうがプロジェクターがあるので撮影に向いていると思います」
撮影現場を確認した雪代は、翔太に脚本の修正の相談を持ちかけた。
(よかった、とりあえず仕事をしたという実績は作れそうだ)
***
「柊くんの活躍は聞いているよ。ユニケーションを東北先端科学大学で使いたい」
飯盛の研究室に招かれた翔太は、飯盛から仕事の話を切り出された。
「よくご存知ですね、私は表に出ないようにしていたのですが」
「プロデューサーと監督が柊くんのことをかなり評価していたよ」
飯盛は、翔太が映画製作の生産性を上げるためにグループウェアを導入したことや、脚本の監修、サイバーバトルへの参加などの話を聞いていたようだ。
(なるほど、再会したときに『立派になった』と言われたのは、事前情報があったからか)
「ユニケーションのレコメンドの仕組みは機械学習を使っているんだね」
「さすがですね、お気づきでしたか」
「相当高度なアルゴリズムを実装しているね。少なくとも我々では作れない」
翔太は話し方に気をつけることにした。
飯盛ほどの専門家であれば、この時代では実現不可能な実装をしていることに気づいてもおかしくはない。
「ユニケーションのビジネス版はクラウドを使っていますが、セキュリティポリシー上、問題はないですか?」
「それなんだが、学内のサーバーで動作するように構築してほしいんだ。導入するためのコンサルティングなどをしてほしい」
「なるほど、そうなると――」
翔動の仕事が忙しい中で、無理やり時間を取った形で仙台に来た翔太であったが、思わぬところで成果を得ることができた。
***
「――実は、大変申し上げにくいのですが……」
翔太は意を決して飯盛に事情を打ち明けることにした。
「在学中に私が入院したことはご存知でしょうか?」
「ああ、大変だったね」
飯盛は思い出すように言った。
少なくとも、彼が柊翔太が入院していたことを把握していることが確認できた。
「私の入院した理由をご存知でしょうか?」
「ご両親からは、大怪我をしたと聞いている」
どうやら飯盛は詳しい事情を知らないようだ。
柊翔太の過去を探るつもりだった翔太はアテが外れたことになるが、これは想定内であった。
「実は、この怪我をきっかけに、それ以前の記憶がないんです」
「なんだって!?」




