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第193話 帰郷

「「最初はグー!」」


東北自動車道のサービスエリアで、神代と美園は本気でじゃんけんをしていた。

映画『ユニコーン』のロケ地である仙台に向かうため、翔太は橘の運転する車に同乗していた。


車で移動していることもあり、二人とも変装はサングラスをかけるなどで、最低限で済ませていた。


「俺、部外者なんだけどなぁ……」


翔太は独りごちた。

ロケ地の一つである東北先端科学大学は、()()()の母校である。

学生生活の大半は柊翔太が過ごしていたため、翔太は卒業手前までの記憶しか存在しない。

卒業生として現地の案内などが期待されていたが、まったく役に立たないことは明白だった。


「脚本の変更があるかもしれませんよ?」


橘が慰めるように言った。

脚本の監修がこの映画においての翔太の仕事であったが、この期に及んでその仕事が発生するかは甚だ疑問であった。


「何もなかったら、タダ飯ぐらいになりそうですね」

「柊さんは十分働いているので、ご褒美だと思ってください」


ロケ地での撮影の後、スタッフや関係者を労うための慰労会が行われる予定である。


***


「大学はどんなところなの?」

じゃんけんで勝利し、翔太の隣の席を確保した神代が尋ねてきた。


「ロケ地になっているキャンパスは緑が豊かでいいところだよ」

「さすが、杜の都だね!」

「桜が見頃になったら、すごくいい感じになるよ」

「そっかー、そのときにまた行きたいな」


神代はご機嫌な反面、翔太は疲れ切っていた。


「柊さん、疲れている?」

「ちょっと無茶な仕事があって……」


観藤会をきっかけに、翔動には大きな仕事が舞い込んできた。


「柊さんが言うんだから、相当な無茶なんだろうね」

「三ヶ月と言われた仕事を終わらせてきたんだよ」

「え、仕事が始まったのは?」

「実は――」

「えええええっ!! だって一週間しか経っていないよ!? それを終わらせたの?」


石動と翔太は、翔動と周りの人員を総動員して、驚異的な期間で与えられた案件 ※1 を完遂した。


「今回は、超優秀なメンバーが集まったからね」

「ううっ、柊さんの活躍を見たかった……」

「もう、エンジニアを演じるシーンは残っていないんじゃ?」


神代は「そういうことじゃないのにぃ」とぶつぶつ言っていた。


「柊さんは、実家には帰るの?」

神代は美園に聞こえないよう、小声で翔太に問いかけた。

柊翔太の両親は仙台に住んでいる。


「記憶のこともあるから、いつもは避けてたんだけど――」

翔太はこれまで、柊翔太の家族とどう接していいかわからず、実家との関わりを避けていた。

(蒼さんとは、少し打ち解けてきたのかな……)


「でも、今回は帰ろうと思うんだ」

「そっか」


神代は翔太を包み込むように優しい目をしながら、翔太の手を握っていた。

不思議なことに神代のこの行為だけで、翔太の溜まっていた疲れがほぐれていくような感覚を受けた。


(柊翔太の過去と向き合う必要があるな)

翔太はそうしなければいけないという、使命のようなものを感じていた。

※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」 121話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/121/

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