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第189話 観藤会2

「これまでの日本の不動産市況は、バブル崩壊による不良債権処理に追われていました。

しかし、銀行へ公的資金注入がされたことで、金融機関の融資が活発に行われるでしょう」


「耳が痛い話だな」

翔太の見解に、白鳥銀行の頭取である白鳥基人(もとひと)が反応した。


基人は長男で詮人の兄に当たる。

端正な顔立ちで人当たりの良さそうな詮人と比較して、基人は厳格で気難しそうな印象だ。


公的資金注入とは、政府が金融機関の資本増強のために、公的資金を投入する措置だ。

これによって、資本の増強と財務体質の改善を図ることができる。

しかし、この措置は経営の失敗を、国民の税金で救済することに対する不公平感や、納得できないという感情が生まれ、物議を醸した。

白鳥銀行は公的資金の注入を受けていない数少ない大手銀行であったが、世間では銀行に対する不信感が高まっていた。


「ということは、不動産市況は盛り返すと考えているのかい?」

おそらく、詮人も同様の見解を持っていると思われるが、翔太の見解を聞きたいのだろう。


「はい、J-REITができたこともあり、不動産投資に対して流動性が高まったことも、資金需要を喚起する効果があります」


J-REITは投資家から集めた資金で、オフィスビルや商業施設、マンションなど複数の不動産などを購入し、その賃貸収入や売買益を投資家に分配する商品だ。


「む、それは私も気になります」

白鳥証券の社長である法善寺君枝(ほうぜんじきみえ)が興味深そうに言った。

J-REITは証券取引所に上場されており、国内株式と同じように売買できる。


「柊くんの話を聞く限りだと、日本の不動産市況は明るくなりそうだね」

詮人は翔太の説得力のある言い方に、前のめりになって話を聞いていた。


「ところが、そうも言っていられないリスクがあります」

「ほう?」「おや?」


この場の全員が翔太に注目した。

そして、ここからの翔太の発言が、白鳥グループの経営戦略に大きな影響を及ぼすことになる。


「米国でサブプライムローンという金融商品が組まれようとしています」

「なんじゃそりゃ?」


終始おとなしく聞いていた石動が突っ込んできた。

この場にいる誰もが翔太の言っていることが理解できず、唯一、基人のみが少しながらも理解を示しているようだ。


「サブプライムローンとは、信用力の低い借り手に対して提供される住宅ローンです」

「そんなことをしたら、審査基準が緩くなるな」

詮人が怪訝な反応をしたのも無理はない。


「はい、その分金利が高く設定されています」

「それでも貸し手側のリスクは高いように見えるが」

「はい、そのとおりです」


翔太は基人の意見が正しいと強く同意した。


「問題は、このローンが証券化されることで、リスクが潜在化したことです」

「証券化したからと言っても、リスクが見えないわけじゃないですよね?」

法善寺の指摘はもっともだ。


「はい、証券化はモーゲージ担保証券――MBSとして組成されます。

複数の住宅ローン債権を束ねる形になります」

「たしかに貸し手からすると、どんなリスクをとっているかわかりくにいな」

基人の表情は険しくなった。


「さらにCDOという手法を使い、格付けを高めて多くの投資家の資金を集めることが可能になります」

「CDO?」

「担保となるローン債権毎に支払い優先順位や保証を付けることにより、ローンのリスクを再評価しています」

「聞けば聞くほど複雑だな……」


詮人は職業柄、住宅ローンに精通しているはずであるが、不動産会社の社長であっても理解が難しいようだ。


「資金を集めるという点では、優秀なスキームに見えますね。

かなり高度な金融工学が使われてそうです」

「おっしゃるとおりです」


法善寺は職業柄、金融工学に精通しているためか、理解が早かった。


「そして、貸し手である投資家は米国の住宅価格が上昇を続けていることから、リスクを過小評価する傾向になることが予想できます」

「なんと!」


翔太は『予想』と言ったが、実際には()()したことだ。

実際に投資家はレバレッジをかけ、リスクをさらに高くしていた。


翔太のリアリティのある語り口に、この場にいる者は翔太の説明に妙な説得力を感じていた。


「それでは、さらに住宅価格が上昇して、金利が上昇すると……?」


基人が恐る恐る尋ねた。

住宅価格の上昇を抑えるには利上げが必要になる。

利上げが行われた場合、借り手が減少するため住宅価格が反転して下落する。


「はい、人類が経験したことのないような金融ショックが起こりえます」

「「「ええっ!?」」」

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