第185話 延長戦
「――以上のことから、短い動画のほうが再生数は伸びることがわかります」
会議の参加者は神代の発表に耳を傾けていた。
サイバーフュージョンの会議室は普段とは一変して物々しい雰囲気だった。
カメラや集音マイク、照明などがセッティングされており、周りはスタッフで囲まれていた。
本来であればこれは翔太の仕事であったが、それらしい絵を撮りたいテレビ局の都合と、神代の露出を増やしたい霧島プロダクションの都合が合致した結果、代わりに神代が会議に参加している。
会議の準備は翔太と神代で行っていた。
神代はドキュメンタリー番組のために、この会議に参加していた。
今日の神代は黒のスーツに身を包み、髪をアップにまとめている。
プロジェクターには翔太と一緒に作成した資料が投影されていた。
神代のプレゼンテーション能力は健在で、砂漠で砂さえ売れそうな説得力を見せていた。
サイバーフュージョン側からは、パーソナルメディア事業部の社員が出席していたが、彼らの表情はぎこちなかった。
会議室に神代が来ているためか、テレビの撮影が入っているためか、翔太はその両方が原因だろうと推測した。
特に佃の表情は崩れ切っており、まさに佃煮と化していた。
番組に佃の顔が使われることは皆無であろう。
「ここではどのような話し合いが行われているんですか?」
二宮は会議の様子を窺いながら、皇として参加している翔太に尋ねた。
「先日、スターダストブログに動画をアップロードする機能が加わったのですが、利用制限を設けているため、どこまで制限を解除するかを検討しています」
「ふむふむ。神代さんが発表しているのはなぜでしょうか?」
「動画はネットワークに負荷がかかるため、まずはキリプロさんの所属タレントのブログに試験的に実装しています。
そして、神代さんはこのデータを分析した内容を共有しています」
「データ分析はすぐにできるものなのですか?」
「統計の知識と、そのデータのドメイン知識――つまり対象の業種や業界に特化した知識の両方が必要です」
「すごい! ということは、神代さんにそれを教えた方がいるってことですね」
「そうでしょうね」
翔太がそれが誰なのかを知っているが、決して口には出さなかった。
二宮は何かに気づいているのか、チラチラと翔太に目線を送っていた。
「皇さんは、サイバーバトルで一緒のチームだったんですよね」
二宮は神代の活動をかなり調べてきているようだ。
「そ、そうですね……」
「なるほど……よくわかりました」
勝手に納得している二宮に、翔太は「何が?」とは聞けなかった。
「会議の後、神代さんにいくつか質問をする予定なのですが、聞いておいたほうが良さそうなことはありますか?」
「そうですね、ブログに動画のアップロード機能が付いたきっかけを聞くといいと思いますよ」
***
「あ、あのっ、皇さん!」
この会議をもって本日の撮影は終了したため、翔太はこのまま帰るはずであったが、二宮に呼び止められた。
神代と橘は別の仕事の現場に移動していた。
「この後、食事に行きませんか?」




