第181話 童殿上
「なんじゃこりゃあ」
翔太は思わず、七曲署の刑事のような叫び声を上げた。
下山のトークを聞き終えた二人は、スポンサーブースを回ることになった。
映画『ユニコーン』の製作委員会のブースは長蛇の列を作っていた。
ブースには入場制限がかけられており、蒼が整理券を配っていた。
「蒼さん、おつかれさまです」
「あ、翔太……この子は?」
「元同僚の肉親です。色々あって、俺が案内しています」
(ギリギリ嘘は言っていない……はず)
「義嗣、俺の姉だ」
「白鳥と申します。柊さんには大変お世話になっております」
(さらっと本名バラしているけど大丈夫なのか?)
白川は丁寧な所作で深々とお辞儀をした。
蒼は皇族に対応するかのような、白川の振る舞いに圧倒されていた。
「柊蒼です。こんな礼儀正しい子は初めて見たわ」
「神代さんたちは明日ですか?」
「そうね、例のイベントもあるし」
石動によって発案された内容は、イベント二日目に公開される予定だ。
「映画のプロモーションとしては十分な成果になりそうですね」
翔太は長い待ち行列を見ながら言った。
「そうね、用意したノベルティがあっという間になくなりそうだから、ほかで配るために用意していた在庫を引っ張ってきたわ」
「追加でスポンサーが付くとよいですね」
「それが、もうそういう話が来ているのよ」
翔太は両隣にあるサイバーフュージョンと翔動のブースを眺めた。
どちらも映画のスポンサー企業で、来場者が殺到している。
「義嗣、並ぶか?」
翔太は映画関係者であるため、融通を利かせられる立場ではあるが、それを行使するのは体裁が悪いと感じていた。
白川は製作委員会のブースには興味がないのか、サイバーフュージョンに顔を向けた。
***
「柊さん、おつかれさまです!」
サイバーフュージョンのブースを訪れた翔太は、佃から声をかけられた。
「盛況ですね」
「ええ、おかげさまで。くまりーの演説、最高でした!」
佃なら、神代が般若心経を唱えても感動しそうであるが、口には出さなかった。
「柊さん、彼は?」
大熊が白川を見て言った。
(だ、大丈夫かな……)
大熊は白川の熱狂的なファンだ。
加えて、サイバーフュージョンのオフィスでは面識があった。
身バレしたらどんなことになるか、想像するのも怖かった。
「義嗣と言います。御社の技術に大変興味を持っております」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
大熊は白川の素性には気づいていないようだが、顔を真っ赤にしていた。
翔太は、大熊が変な性癖に目覚めないことを切に願った。
「お、柊」
「へわぁ」
野田に声をかけられ、翔太は奇声を上げた。
(なんで、コイツとはいつもややこしい時に遭遇するんだ……)
「野田も来ていたんだな」
「あぁ、俺の彼女がそっちに行っているからな」
野田は翔動のブースを指して言った。
「今宮さんにはお世話になった」
「こっちこそ、仕事をもらえて喜んでいたぞ」
野田は「それにしても、妙な喜び方をしていたな」と付け加えていた。
今宮は翔動のブースでサイン会をしていた。
ユニケーションの公式コンテンツでは『まみやり』のイラストが使われている。
この後、今宮は白川と会ったことで、彼女は鼻血を出すことになる。 ※1
「そんで、こちらの超絶イケメンくんは?」
「あー、同僚の親族を案内している」
「義嗣と言います」
丁寧な所作であいさつをした白川に、野田はのぼせ上がったのか頬が赤くなっていた。
『どうしよう、俺の中でまた新たな扉が開いたかもしれない……』
野田は不穏な独り言を発している。
『なぁ、あのことを言っていいか?』
『構いません』
翔太は白川に許可を取って発言した。
「野田、この義嗣がPawsのコンサートチケットを譲ってくれたんだ」
「ええええっ!?」
※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく」107話 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/107/




