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第179話 基調講演

『おそらく、これはあいさつ代わり……どこから仕掛けてくるか……』


Web Tech Expoのイベント会場では、映画『ユニコーン』のプロモーションビデオが流されていた。

ハイライトとなるシーン125を中心として、神代と美園の躍動感が溢れる演技に参加者全員が惹き込まれていた。

プロモーションビデオは製作中のもので、このイベントのために急遽用意したものだ。

初公開となる迫力のある映像に、参加者は釘付けとなり、ビデオの再生が終わると拍手が沸き起こった。


「霧島プロダクションの神代です。ご覧のとおり、この映画に出演しています」


ステージに神代が現れ、会場がどよめき、拍手が鳴り響いた。

神代は映画と同じ衣装で現れたこともあり、映画の臨場感がそのまま会場に投影されたように感じている参加者も多いだろう。

イベント参加者の大半は男性であるが、女性の参加者も神代の凛々しい姿に「カッコいい……」と見惚れていた。


「この映画はフィクションですが、映画で使われているシステムは現実世界と同じシステムが組まれています」

参加者に驚きの声が上がった。


「システムに携わっているみなさんは、これだけでもこの映画の本気度がうかがえると思います。

なんと、製作委員会のブースでは、映画で使われたシステムを展示していますので、ぜひご覧ください」


「おおっ」という歓声と共に、参加者がイベントの案内図を確認しはじめた。

製作委員会のブースの位置を確認していることは容易に想像が付く。


「こりゃ、大変なことになるな……」

翔動のブースを設営していた石動がつぶやいた。

基調講演はスポンサーエリアにもサテライト中継されており、スポンサーブースのスタッフの誰もが手を止めて神代の演説に聞き入っていた。


「そうだな……」

翔太は製作委員会のブースに顔を出すつもりであったが、来場者が殺到してブースに近づくことすら難しそうだと予想できた。


「霧島プロダクションのウェブアプリケーションの取り組みについて説明します――」


参加者の多くは神代のブログの読者であることが想定されるが、その内部の仕組みについて具体的に言及されるのは、この場が初めてであった。

ITエンジニアにとって興味を惹かないはずはなく、聴衆は神代の言葉を一言一句聞き漏らさないよう耳を傾けていた。


「このブログシステムは当初から冗長性を念頭に置いた設計で――」


神代のことをお飾りだと認識していた参加者は、神代の専門性の高い話に、その考えを改めざるを得なかった。


神代はフィンガーフローを使って、終始、聴衆を向いたまま演説をしていた。

聴衆はIT技術の専門性の高さに驚くとともに、プレゼンテーション能力の高さにも驚いていた。


「このクラスタ技術は、映画の中でも使われていますので、ぜひご覧くださいね」


神代はくどくならない絶妙な塩梅で、映画をアピールしていた。

そして、イベント二日目のクロージングセッションで、映画の前売り券の抽選会の開催が告知された。

会場内のボルテージは過熱していく一方だった。


「今、私たちは重要な転換点に立っています。

ドットコムバブルの終焉でIT分野は凋落していくとの見方も出ていますが、それはないと断言できます」


神代はIT業界について話しだした。

今後の業界の動向については、未来を知っている翔太のアドバイスもあったためか、神代の演説には妙な説得力が生まれていた。


「神代さん、うまいな」

「何が?」

「主語を『私たち』にしていることで、自分も当事者であることを感じさせているんだ」

「参加者のほとんどはIT関係者だから、連帯感が生まれるのか……すごいな」


翔太の解説に石動も感心しているようだ。


「私たちの前には、無限の可能性が広がっています。

ウェブ技術は単なる技術的なプラットフォームを超えて、人々の生活を豊かにする社会基盤へと進化を遂げようとしています。

その未来を形作るのは、まさにこの場にいる皆様一人ひとりです」


もはや、会場内で神代の演説を聞いていない者はいなかった。


「本日は、このような意義深い機会をいただき、イベント関係者の皆様に心より御礼申し上げます。

そして、現代社会の重要なインフラを支え続けてくださっている皆様に、深い敬意を表します。

共に、この素晴らしい未来を創造していきましょう。

ご清聴ありがとうございました」


イベント会場は割れんばかりの拍手に包まれた。


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