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第148話 寵児

「――以上がブースの仕様になります」


Web Tech Expoの会場であるコンベンションセンターの会議室では、寺岡によるスポンサー説明会が行われていた。


(あれは、森川さんか……)

参加者の中には翔太が見知った顔があった。


「すごい人だな……」

石動は想定以上の参加者に驚いていた。


「スポンサー申込みがあまりにも多くなったので、枠を増やしたらしい」

「神代さんの影響だな」


翔太はこのイベントのスポンサーとして参加することは初めてであったが、出席者の熱気はかつてないものであると想像できる。


***


「柊くん、ちょっといいかい」

((ええええっ!))


説明会が終わり、声をかけられた人物に翔太と石動は驚いた。


「船井さん、お久しぶりです」


翔太と石動は船井との面識があった。 ※1

船井はエッジスフィアの社長であり、IT業界の寵児と呼ばれている著名人だ。

エッジスフィアもイベントのスポンサーの一社であるが、大企業の社長が自ら業務連絡的な説明会に足を運ぶことは異例と言える。

現に、サイバーフュージョンからは社長の上村ではなく、森川が参加している。


「どうしてここに?」

エッジスフィア(うち)もスポンサーをしているからね……というのはもちろん建前で、君に会いに来たんだ」

「私が来るかどうかはわかりませんよね?」


船井がこの説明会に来たところで、翔太に会える保証はない。

船井はいくつかの子会社を束ねる立場で、非常に多忙なはずだ。

来るかどうかわからない翔太に会うために、この説明会に参加することは非効率に思えた。


「製作委員会がダイヤモンドスポンサーだからね。あれは柊くんの仕込みだろ? となると今日ここに君が来る可能性は高いと判断した。他にも理由があるが……これは企業秘密だ」

「なるほど……」


説明会には映画のプロデューサーである山本と、広報を担当している蒼も参加していた。


***


「映画の撮影は順調に進んでいるようだね」


三名はコンベンションセンター内のカフェに移動した。

船井は三十代の若さにしてエッジスフィアを上場するほどの大企業までに成長させている。

このことがメディアの関心を呼び、カリスマ社長などとも呼ばれている。


「はい、おかげさまで」

「どういうことだ?」


石動は翔太が社交辞令とは思えないニュアンスで言ったことに対して疑問を持った。


「神代さんのオーディションのときに、狭山のアドバイザーとして船井さんが就いていたというのは話しただろ?」

「あぁ、そうだったな」

「普通にやったら勝てないと思って、いろいろとがんばったんだ」

「あぁ、それで……」


実際には狭山が翔太に対して行った行為に、神代と橘の逆鱗に触れたことも要因ではあったが、ここでは伏せた。


「僕はその()()()()を聞いてみたかったんだよ。狭山くんから聞いた内容では要領を得なくてね」

「なるほど」


翔太はどこまで情報を明かすか思案した。

翔動がこのままビジネスを伸ばしていくと、エッジスフィアの事業と競合する可能性があった。

翔太は、今後、船井が世間を騒がすほどの騒動を起こすことを知っているため、十分に警戒する相手であった。

また、船井が鷹が獲物を捉えるような目で翔太を見ていることも、翔太の警戒感を強める要因となっていた。


「神代さんは資金調達をする場面の役作りのために、リアルの現場で出資者に説明したんですよ」

「すごいことを思いつくな」


船井は素直に感心していた。この反応に不審な点は見当たらなかった。

逡巡した結果、翔太はスターズリンクプロジェクトのことを伏せて説明した。


「どんな事業の資金調達をしたんだい?」

「NDAがあるので、詳しく話す場合は事務所の許可が必要になります」

「さすがだね、柊くんは信用できる人間のようだ」


翔太は内心の警戒感を表に出さないように努めた。

将来の船井の行動を知らなければ、彼を警戒する理由は見当たらない。


「オーディションではクラスタシステムのデモを行いました」

「あぁ、狭山くんから聞いているよ。電源を引っこ抜いたんだってね」

「ええ、システムの構成は――」


狭山が見ている情報は船井に共有されているはずなので、オーディションの話はある程度話すことができた。


「――なるほど……これは僕の完敗だったな」

「難しい課題をこなした神代さんがすごいんだと思います」

「確かにそうだね。狭山くんに同じことを要求されても無理だったと思う」


船井はカリスマ社長と評されるだけのこともあり、話を引き出すのが上手だった。


「君たちのビジネスのことも聞きたいな」

「はい、翔動は――」


翔太は事業の話は石動に任せることにした。


「うーん、石動くんは僕の若い頃みたいだよ」

「本当ですか!」


石動は喜んでいたが、翔太の心中は複雑であった。

船井に乗せられ、危うい方向に進まないよう、気をつける必要があると感じていたところで――


「石動くん、柊くん。エッジスフィア(うち)と組まないか?」

※1 「俺と俺で現世の覇権をとりにいく 第57話 」 https://ncode.syosetu.com/n7115kp/57/

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