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第146話 身バレ

「問い合わせが殺到しています」


ネイティブコンテンツ株式会社の寺岡は疲労半分、喜び半分といったような表情を見せながら言った。

寺岡は同社の社長であるとともに、Web Tech Expoを主催する一般社団法人の代表理事である。


ネイティブコンテンツのオフィスの会議室では、Web Tech Expoについてのミーティングが行われていた。

議題は神代が参加することにより、混乱が予想される会場をどのように制御していくかについてだ。


Web Tech Expoのウェブサイトに基調講演者が神代であることが掲載されたことで、あらゆる方面からの問い合わせが殺到した。


「スポンサーの枠は一瞬で埋まりました」


Web Tech Expoの座長を務める鷺沼が言った。

座長は一般社団法人が公募し、立候補者の中から任命される。

このような分離運営が行われている理由は、一般社団法人の理事と運営スタッフの意思決定プロセスを分離するためだ。


鷺沼はデルタファイブの社員であり、石動の師匠だ。

翔太にとっても前の人生では憧れだった存在だ。

彼女の容姿は当時の記憶のまま美しく、身だしなみに頓着しないことも相変わらずだった。

柊翔太として鷺沼に会うのは、サイバーバトル以来だ。


(鷺沼さん、相変わらずだな……)

翔太の心中は複雑だ。

会社員としてはデルタファイブに在籍していた期間が最も長く、鷺沼には入社から退職時までお世話になっている。

同じ時間軸――世界線で出会うことがあれば、思い出話に花を咲かせることもできるだろうが、今となっては絶対に叶わない望みであった。


翔動(うち)が間に合ってよかったです」


翔太はあいさつ時に名刺を二枚渡していた。

一つは霧島プロダクションで、もう一つは翔動のものだ。


Web Tech Expoのスポンサーは基調講演者が公開されるまでは空きがあったが、神代の影響によりスポンサー申し込みが殺到した。

サイバーフュージョンの上村は翔太の情報を受け、即座にプラチナスポンサーを確保していた。


「加えて、スタッフの申込みが急増しました。正直、猫の手も借りたいくらいなのでこれは助かりました」

鷺沼はほっとしたように言った。

一般参加者用のチケットは後日販売されるが、即時完売は確実で、来場者は過去最高になる見込みだ。


スタッフはボランティアとして募集された人員で構成されている。

事務局チーム、コンテンツチーム、会場チーム、システムチームなどのチームで構成され、チームリーダーは座長である鷺沼が指名する。

寺岡はスタッフも兼務しており、スポンサー担当だ。


「イベント当日の警備会社は当事務所が手配します」


橘は粛々と警備体制について説明を始めた。

以前はワンセキュリティという警備会社を利用していたが、星野の脅迫事件以降は別の会社を使っている。


「助かります。会場チームのリーダーを紹介しますので、そこで警備会社とは連携しましょう」

今日のミーティングでは鷺沼が取りまとめを行っていた。


「神代はスポンサーのブースにも顔を出す予定ですが、問題ありませんか?」

「ええ、そうですね――」


いくつかの話し合いが行われ、神代には専属のスタッフが付くことになった。


***


「非常に活気があるイベントですね」


橘は寺岡や鷺沼の話の内容から、スタッフが自発的で活発に動いていることを感じ取っていた。

寺岡は愛煙家で、タバコを吸いに席を外していた。


「ありがとうございます。芸能界のかたに言われると説得力がありますね」


翔太は鷺沼が座長をやっていることを、前の人生で知っていたが運営には関わっていなかったため、その内情までは把握していなかった。

なお、翔太がWeb Tech Expoに登壇することになってから知ったため、石動は鷺沼がこのイベントに関わっていることを知らない。


デルタファイブでも卓越した技術力とマネジメント能力を持っていたが、その能力はWeb Tech Expoでも遺憾なく発揮されているようだ。


「……」

翔太は口を開くと昔の自分のことを言ってしまいそうで、沈黙してしまった。


「――あの、ずっと気になっていたのですが」


鷺沼は翔太を見ていった。


「皇さんですよね?」


いたずらっぽく言う鷺沼に、翔太は内心で驚き、飛び上がりそうになった。

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