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第132話 殺人光線

「あちゃー、ラスボスが出ちゃったー」

橘を目の前にして、雫石は平然と言ってのけた。


ここは翔太が変装した神代と初めて出会ったカフェだ。

橘は劇団ヒナギクにコンタクトを取る前に、雫石と話す目的で呼び出し、車で出迎えている。

人気のない席が確保されており、込み入った話をしても問題はない。


「雫石さん、あなたの行為はプライバシーの侵害に当たります」

()()()は侵害されまくっているけどね」


翔太はこの点について同情を禁じ得なかった。

芸能人というだけで、プライバシーの権利が侵害される理由はない。

個人の人権を無視してまで嗅ぎ回る連中や、それを娯楽として消化する人種に嫌悪感を抱いていた。

翔太が芸能界にまったく興味を持たない理由の一つだ。


「それはそれで問題ですが、柊さんは普通の会社員です」

「橘さんは普通だと思っていないんじゃないの?」

「そこは問題ではありません」


橘は「はあーっ」とため息をついていた。

雫石はペースを乱そうとしているかもしれないが、それは橘もわかっているだろう。


雫石は紅茶に砂糖をどばとばと入れていた。

この行為だけを見ると年相応にも見えるが、これが演技である可能性もある。

(疑いだしたらキリがないな……)


「加えて、強迫行為にも該当します」

「柊さんの被害妄想かもしれないよ?」

「メールの文面はそう取られてもおかしくないよ」


翔太はそう言ったものの、これだけでは弱いと感じていた。


「私、未成年だから責任能力はないんじゃない?」

(コイツ……ホントに小学生か?)


「この場合、親権者に賠償責任があります。この件が劇団にも及んだらあなたの女優生命に影響しますよ」

「痛いところを突いてきたね……

実は最初から柊さんのことを誰かに言うつもりはなかった……と言ったら、信じてくれる?」


橘は苦虫を噛み潰すような表情を浮かべた。

普段冷静な彼女にしては珍しいことだ。


「雫石さんは今の状況を楽しんでいるだけで、悪意はないと思います」


翔太の発言に雫石は驚いた表情を浮かべた。

翔太の勝手な想像であるが、雫石は演技をしなくていい相手がほしかったのだと思われた。

橘に関しても翔太が雫石の本性を伝えたため、気を遣わなくて良い相手だと判断したのだろう。

撮影現場の彼女を見る限りだと、演技をしているのであれば橘を相手に敬語で話すはずだ。


「へぇ、やっぱ柊さんは面白いね」


雫石はこれまでに何度か見せた挑戦的な目つきで、翔太を見つめていた。

しかし、彼女の余裕は次の橘の一言で吹き飛んだ。



「――神代については()()()()調べているのですか?」

橘は殺意ともいえそうな視線で、刺すように雫石を睨みつけた。


「あっ、あっ……」

雫石は竦み上がっていた。とても演技には見えない。

翔太も、恐ろしさのあまり硬直していた。


「わ、私は……くまりーの演技にしか興味はなくて……」


雫石の発言に嘘はないように感じた。

橘は見定めるように雫石を観察している。


「――わかりました。これ以上、他人のプライバシーを詮索すると、誰の得にもなりませんよ?」


雫石は橘に従うことを決めたようだ。


***


「梨花のことが気になりますか?」

雫石を車で送り、帰りの車内で橘は翔太に尋ねた。


「気にならないと言えば嘘になりますが、詮索をするつもりは一切ないですよ」

翔太も自分の過去を詮索されたくはない。


「でも、我々だけ柊さんの過去を知っています。不公平だとは思わないのですか?」

「今の状況に満足していますから、それだけで十分でしょう」


そういえば、翔太は神代の本名を知らないことに気が付いた。

以前に名字を尋ねたときははぐらかされたと思ったが、深刻な事情があるのかもしれない。


「もし、その時が来たら……梨花の味方になってくださいね」


神代と橘の関係は、翔太が思っていたよりも深い絆があるように思えた。

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