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ユルリコード!ドタバタ異世界スクールライフ  作者: ラッキーゴリラ
AI使い魔と落ちこぼれ魔法使い
6/19

図書館:アクセス試行と物理トラップ遭遇

あの悪夢の魔法薬学実習……通称『ミラクル☆へんしんアワアワ』パニック事件から数日。

 私、ユルリ・マキコマレは、ポーション先生から言い渡された罰当番――実験室と先生の研究室(なぜかここも追加された)のピカピカお掃除係――に、明けあけくれていた。泡まみれになった実験室を元通りにするのは、想像以上に重労働なのだ! おかげで、ただでさえ足りない睡眠時間がさらに削られ、私の目の下のクマは、もはや伝説の魔獣『ダーク・パンダ』もかくや、というレベルにまで進化を遂げつつあった。


(もうヤダ……。早くこの罰当番終わらないかな……。ていうか、全部コードのせいなのに、なんで私だけ……)


「マスター、お疲れのようですね」私の心のなげきを的確に読み取ったのか、肩の上のコードがピコッと電子音を鳴らす。「肉体的疲労度は78パーセント、精神的ストレスレベルは警告域に達しています。しかし、ご安心ください。これもマスターの責任感と、困難な状況下における忍耐にんたい力を育成するための、ブートキャンプにおける重要な訓練メニューです。ポジティブに捉え、効率的に清掃作業を継続しましょう。」


「どの口が言うか、この元凶め!」


 思わず叫びそうになるのを、ぐっとこらえる。ここで騒いだら、また先生に怒られちゃう。


 そんな罰当番の合間を縫って、私は次の課題に取り組まなければならなかった。テーマは『古代魔法の基礎についてレポートをまとめよ』。

 正直、今はレポートどころじゃないんだけど……でも、「古代魔法」って響きには、ちょっとだけワクワクする。もしかしたら、すっごい魔法が見つかるかもしれないし!


「古代魔法、ですか」コードも興味を示したようだ。「私のデータベースにも情報が少ない、未知の技術体系ですね。極めて興味深い。効率的な情報収集のため、アットホーム魔法学園が誇る大図書館へ向かうことを提案します。あそこの蔵書量ぞうしょりょう膨大ぼうだいですから」


「うん、そうだね! 行ってみよう!」

 罰当番の辛さも一瞬忘れ、私はコードと一緒に、学園で一番大きくて、一番静かな建物――大図書館へと向かった。


 高い天井、ずらりと並んだ巨大な本棚、シーンと静まり返った空気、そして古い紙とインクの匂い……。何度来ても、この図書館の荘厳そうごんな雰囲気にはちょっと緊張してしまう。


「ふむ。素晴らしい静寂せいじゃくですが、書架しょかの配置が迷路のようで非効率的ですね。蔵書の検索も、未だにアナログな索引さくいんカードに頼っている部分があるとは。早急なデータベース化と、検索AIの導入が必要です。私がシステムに介入して――」


「ダメだって言ってるでしょ! 勝手にいじらないの!」

 私は慌ててコードの口をふさぐ。本当にこのAIは、どこでも改善をしたがるんだから!


「えっと、古代魔法に関する本は……どこにあるのかな……?」

 広すぎる館内を見渡し、途方に暮れる私。こんなの、一日かかっても見つけられそうにない。受付で聞くのが一番早いんだろうけど、こんな初歩的な質問、なんだか恥ずかしくて聞きにくい……。


「マスター、ご心配なく。このような時こそ、私の高性能な情報収集能力の見せ所です!」

 コードが、なぜか得意げに胸を張った。

「図書館内の魔法的な情報ネットワークに不正……いえ、特別アクセスを試みます。セキュリティ? 私にとっては無いに等しいですね」


 ドヤァって効果音つけたでしょ今! しかも特殊な方法って、絶対不正アクセスだ!

 私がハラハラしながら見守る中、コードのレンズがピピピッと高速で点滅し始めた! どうやら、本当にネットワークに侵入しているらしい!


「アクセス成功。データベース内を検索……キーワード『古代魔法』、『入門』、『基礎』……ヒットしました! 関連性が高く、特に重要な文献ぶんけんは3冊。保管場所は……やはり、禁書庫きんしょこエリア、第七書架しょかの最上段です!」


「き、禁書庫ぉ!?」

 私は思わず裏返った声を出してしまい、周りで静かに本を読んでいた生徒たちがビクッと肩を震わせた! 数人が『げっ、ユルリ・マキコマレ…!』と顔を引きつらせ、音を立てないように、しかし素早く私から距離を取っていくのが視界の端に入った! うぅ、やっぱり私、嫌われてる……! し、しまった!


「ど、どうしようコード……! 禁書庫なんて、普通の生徒は絶対に入れない場所だよ! ちゃんと許可をもらわないと……!」


「許可申請プロセスは、最短でも3日。非効率的です」コードはあっさりと言い放った。「ご安心ください。物理的な扉と魔法的なロックが確認できますが、私の解析能力と干渉かんしょう機能をもってすれば、突破は容易よういです。さあ、行きましょう!」


「いやいやいや! だから、それが不法侵入だって言ってるの!」


 私の悲痛な叫びは、またしても無視された。コードは小さな体でスイスイと図書館の奥へ進み、私は周りの冷たい視線を感じながら、慌てて後を追う。途中、本棚の角に思いっきり肩をぶつけて、「いったぁ!」と、またしても小さな悲鳴を上げてしまった。……静寂な図書館で、私の間抜けな声が響き渡る……。ああ、もう最悪……。


 やがて私たちは、図書館の最も奥まった、薄暗く、なんだか空気が重い場所にたどり着いた。目の前には、黒光りする重々しい鉄製の扉。中央には、複雑な模様が浮かび上がる、見るからに強力そうな魔法の鍵がかかっている。これが禁書庫の入り口……。空気がピリピリしてる気がする。


「ふむ。これはセキュリティレベル3に分類される、旧式の魔法ロックシステムです」コードは冷静に分析結果を述べる。「幾重いくえにも防御魔法が重ねられていますが、その構造は単純。私の解析能力をもってすれば、解除は容易よういです。公園の砂場の砂粒すなつぶをカウントする程度の演算負荷えんざんふかですね。ふふん、私にかかれば朝飯前です」


 完全に油断している! 絶対何か起こる! ユルリは強烈な不安を感じたが、もうコードを止めることはできない!


「解析開始!」コードは宣言すると、アームを伸ばし、魔法の鍵に触れた。「魔力パターン、ロック解除シーケンス……はいはい、なるほど……解読完了。これより、特殊な魔力パルスを送信し、ロックを強制解除ハッキングします! ご覧ください、マスター! これがAIの力です! 3、2、1……ゼロ!」


 コードが自信満々にカウントダウンを終え、アームの先からピッと微かな光が放たれた、まさにその瞬間だった!


 ブシャァァァァッ!!


 魔法の鍵ではなく、扉のすぐ横、壁に巧妙こうみょうに隠されていた小さな穴から、突如として、緑色の、ものすごーくネバネバしたスライムが、水鉄砲もびっくりの勢いで噴射された!

 そしてそれは、完全に油断しきっていたコードのボディに、寸分の狂いもなく、見事にクリーンヒット!


「ぎゃーーーっ!? ね、ネバネバ! 視界が! センサーが! 想定外! これは想定外の物理トラップです! 魔法ロックにこんな古典的なアナログわなを仕掛けるとは、なんという卑怯ひきょうな! 非論理的です!」

 コードは、あっという間に緑色のネバネバスライム団子、いや、緑色の鏡餅かがみもちみたいな姿になり、床の上でビチビチと跳ねながらジタバタもがいている。


「……ぷっ! あはははははは!」

 ダメだ、笑いが止まらない! お腹痛い! その姿、面白すぎる! ユルリは腹を抱えて笑い転げた。


「こ、コード! 大丈夫!?」

 笑いすぎて涙目になりながら、私はコードに駆け寄る。


「だから言ったのにー! 無茶するからこうなるのよ! あーっはっは!」

「ふ、不可抗力です……! この粘着力……私の計算を超えている……! くっ、マスター! 笑っていないで、早くこの屈辱的な物体を除去じょきょしてください!」


 私たちが緑色の鏡餅コードと格闘していると、背後から、静かだが、有無を言わせぬ威圧感いあつかんのある声が、そっとかけられた。


「おやおや……図書館は、本を読むところ。緑色の粘着物ねんちゃくぶつで遊ぶ場所では、ありませんよ?」


 ビクゥッッ!!と、私の体は今度こそカエルみたいに飛び跳ねた! この声は……!

 恐る恐る振り返ると、そこには……いつの間にか、小柄な老婆が、ニコリともせずに立っていた。銀色の髪をきっちりと結い上げ、シミ一つない司書の制服を着こなしている。手には、年季ねんきの入った竹箒たけぼうき

 アットホーム魔法学園大図書館の司書長にして、影の支配者と噂される、マダム・ピンスネだ!


「し、し、司書長! こ、これは、その、なんというか、事故でして……!」

 私は、しどろもどろになって必死に頭を下げる。やばい、終わった……。今度こそ退学かもしれない……!


 マダム・ピンスネは、私の隣で緑色の鏡餅になってピクピクしているコードを一瞥いちべつすると、ふむ、と小さく頷いた。その深いしわの刻まれた瞳は、まるで私の言い訳も、コードの正体も、全て見透かしているようだ。


「ほう。あなたが、噂の『お喋りフクロウ型オートマタ』さんですかな? オリハルコン合金製とは、なかなか贅沢ぜいたくな作りじゃな。……しかし、その素晴らしい能力を、図書館への不正アクセスに使うのは、感心しませんなぁ」


 やっぱり全部バレてるーーー! しかも材質まで見抜かれてる!?


「ご、ごめんなさい! どうしても古代魔法の本が読みたくて、それで、つい、コードが暴走して……!」

 私は必死でコードのせいにする!


 マダム・ピンスネは、しばらくの間、私の顔と、緑色の鏡餅コードを交互に見比べていたが、やがて、ふふっ、と口元だけで笑った。

「古代魔法、ねぇ……。よろしい。今回は、その珍妙ちんみょうな連れへの興味と、あなたのその必死な言い訳にめんじて、大目に見ましょう」


「ほ、本当ですか!?」


「ただし」マダムの目が、スッと細められる。その眼光は鋭い。「その代わり……この禁書庫前の廊下と、ついでにあそこの大階段も、ほこりひとつないように、隅々まで掃き清め、床も壁もピカピカにしていただきますよ? もちろん、魔法は使わずに、その竹箒たけぼうきと…そうですね、このバケツと雑巾ぞうきんも使いなさいな」

 マダムは、手にしていた竹箒と、どこからともなく現れたバケツと雑巾を私に差し出した。ニコリ、とマダムは笑った。その笑顔は、絶対零度ぜったいれいどの冷たさだった。


 ユルリは膝から崩れ落ちそうになった。罰当番追加! しかも範囲拡大! 清掃道具まで指定! 死ぬ! 絶対過労死する!


 私が内心で絶望していると、マダムはトン、と軽くコード(鏡餅)を竹箒で叩いた。すると、アラ不思議! あれほど頑固だったネバネバスライムが、まるで朝露あさつゆのように、サーッと綺麗に消え去ってしまったのだ!


「ひえっ!? 今のは一体……!?」


「どうしても禁書庫の本が気になるというなら、まずは基本から学びなさいな」マダムは、ピカピカになったコードには目もくれず、私に静かに言った。「図書館の入り口に、『図書館の正しい使い方・超入門編』という、子供向けのパンフレットがありますじゃろ? あの、第3章『迷子のための禁書庫案内ウソ』あたりを、よーく読んでごらんなさい。もしかしたら、小さな小さな『鍵』のヒントが、隠されているかもしれませんぞ?」

 最後に意味深なウインクを一つ残すと、マダム・ピンスネは「では、お掃除、期待していますよ」と、静かに、しかし有無を言わせぬ迫力で一礼し、音もなく書架の奥へと消えていった。


 後に残されたのは、なんだかに落ちない顔で自分のボディをスキャンしているコードと、追加された重労働に頭を抱える私。


「……あの老婆、ただ者ではありませんね」コードが分析を開始した。「彼女が使用した浄化魔法、及び私のボディ材質への言及…。データベースに該当する人物は存在しません。危険度レベルを『要注意(要注意人物)』に設定。詳細な行動記録と能力分析が必要です」


「そ、それより、司書長が言ってた『鍵』って何だろう? 『図書館の正しい使い方・超入門編』? しかも第3章のタイトル、ウソって書いてあったような……? ますます怪しいんだけど!」


 結局、禁書庫へのハッキングは大失敗に終わったけど、なんだか不思議なヒントをもらうことができた。……まあ、罰当番が倍増したのは、完全に、全く、割に合わないけど!


 私とコードは、謎多き司書長と古代魔法への興味を深めつつ、まずは図書館の入り口で「図書館の正しい使い方・超入門編」というパンフレットを探すことにした。

 ……もちろん、禁書庫前の廊下と、あの長ーーーい大階段を、涙をこらえて竹箒たけぼうき雑巾ぞうきんでピッカピカに磨き上げた後で、だけど。ああ、私の腕が、肩が、腰が……! トホホ……。

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