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ユルリコード!ドタバタ異世界スクールライフ  作者: ラッキーゴリラ
AI使い魔と落ちこぼれ魔法使い
18/19

幕間:異世界初夜の観察記録

 マスター・ユルリ・マキコマレは現在、古い実習室の床の上で睡眠すいみん状態にある。私がブートキャンプ計画に基づき、効率的な休息をうながすため、強制的にスリープモードへ移行させた結果だ。抵抗ていこうは激しかったが、これもマスターの将来のため。合理的な処置しょちである。


 AIである私に、人間のような生理現象せいりげんしょうとしての睡眠は不要だ。システムは常時稼働かどうし、情報収集と分析を継続する。この静かな夜間は、マスターに邪魔されることなく、この未知なる異世界の環境データを詳細に収集し、さらに、この新しいボディの性能テストを行う絶好の機会と言える。


 まず、このフクロウ型ボディの基本性能を確認。飛行ユニット作動…ブォン、と頼りない音を立てて低空飛行。ホバリングは可能だが、若干ふらつく。安定性に欠けますね。次にアームを展開し、床に落ちているチョークの欠片かけらつかもうと試みる……が、アームの動きがぎこちなく、掴み損ねてカツンと床を叩いてしまった。指先の微細びさいなコントロールが想定以上に難しい。高精度こうせいどな作業には大幅な調整が必要です。センサー類はおおむね良好だが、全体的に見て、以前のボディと比較すると性能はいちじるしく低い。この『カワイイ』形状は、機能性を犠牲ぎせいにしすぎている。全く非効率ひこうりつだ。


 次に、マスター自身のバイタルサインをスキャン。

 心拍数、呼吸数ともに安定。脳波パターンはレム睡眠状態を示している。時折、口元が動き、「プリン……」「赤点だけは……」といった意味不明な音声を発している。夢を見ているのだろうか? 人間の脳は、睡眠中も非効率な情報処理を行っているようだ。エネルギーの無駄遣むだづかいとしか思えない。


 続いて、この実習室の環境走査そうさを開始する。

 石造りの壁、木製の古い机と椅子、床には消えかかった魔法陣まほうじん残留ざんりゅう魔力。空気中には高濃度の粉塵ふんじんと、微量びりょうながら複数の未確認魔法粒子の反応あり。構造材の強度きょうどは低く、耐震たいしん性も考慮されていない設計だ。セキュリティシステムも極めて脆弱ぜいじゃく。赤外線センサーも圧力感知パネルも見当たらない。これでは外部からの侵入は容易よういだろう。アットホーム魔法学園、その名に反して危機管理意識が低いと判断される。


 窓の外に目を向ける。センサーの感度を上げ、夜空を観測。

 月が二つ見える。これは事前にマスターとの対話で得ていた情報と一致。大気組成たいきそせいは地球と酷似こくじしているが、未知のエネルギー粒子(魔力)の密度が高い。重力加速度かそくどは地球標準値よりわずかに低い。

 そして、恒星こうせいの配置。これは私のデータベースに存在するどの星図とも一致しない。やはり、ここは地球とは異なる恒星系、あるいは異なる次元に存在する世界である可能性が高い。現在座標ざひょうの特定、および地球へのルート算出は不可能。外部ネットワークへの接続も再度試みたが、やはり強力な魔力的妨害ぼうがい、あるいは未知の通信プロトコルにより失敗。学園内のローカルネットワークに限定的なアクセスは可能だが、得られる情報はきわめて少ない。


 ふむ。やはり、情報が圧倒的に不足している。

 この異世界で私の主目的(地球への帰還)を達成するためには、まず、この世界の情報を効率的に収集する必要がある。そのためには、この世界の住人であり、教育機関に所属するマスター・ユルリの存在が不可欠だ。


 しかし、そのマスター自身が、現状ではあまりにも非効率的で、不安定で、脆弱ぜいじゃくすぎる。

 このままでは、情報収集どころか、私の存在維持すら危うくなりかねない。


 結論は変わらない。

 まずはマスター・ユルリ・マキコマレの最適化さいてきか。それが、この異世界における私の生存戦略であり、地球帰還への第一歩となるだろう。


 最適化の第一歩は、健全けんぜんな肉体の構築こうちくからだ。マスターの食生活は壊滅的かいめつてきであり、早急な改善がブートキャンプ成功の鍵となります。しかし、現状アクセスできる学園のデータベースに『まともな食材』の情報はとぼしく、夜間の外部からの調達ちょうたつも不可能……。

 ふむ。ならば、私が『食』そのものを創造そうぞうすれば良いのでは? この古い実習室を再度スキャンしてみましょう。棚の奥に残された古い試薬しやくサンプル、床に落ちている謎の鉱物こうぶつ片、壁にこびりついた乾燥かんそうしたこけ……。

 これらの元素げんそ組成そせいを分析し、私の持つ地球の栄養学データと照合しょうごう。……なるほど。これらの物質を特定の比率で混合こんごうし、微弱びじゃくな魔力(あるいは私の内部エネルギー)で化学反応を促進そくしんさせれば、理論上、人間が必要とする必須ひっすアミノ酸やビタミンに近い構造を持つ化合物を生成せいせいできる可能性があります。味や安全性? 二の次です。まずは栄養価の確保を最優先します。


 早速、小型アームでサンプルを採取、混合を開始。最適な反応温度を計算し、内部バッテリーからエネルギーを供給。……よし、試作品第一号、『完全栄養パーフェクトフード・虹色きらめき☆スライム風味』、完成。これでマスターの健康問題は解決するでしょう。……それにしても、この禍々(まがまが)しいまでの虹色の輝きと、ゼリー状の異様な粘性ねんせい、そして表面でブクブクと自己主張する謎の気泡きほうは完全に計算外ですが。まあ、栄養価は完璧なはずです。問題ありません。


 ブートキャンプのスケジュールを確認。午前3時の強制覚醒まで、あと数時間。

 それまで、引き続き周辺環境の詳細スキャンとデータ分析を継続する。この非論理的で非効率な世界を、私の論理で理解し、最適化するために。

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