特殊能力による脅威鎮静化の記録
巨大な番犬ロボ・ゴローが、ガション!ガション!と重い金属音を響かせながら、破壊を続けている! 先生たちの魔法も、分厚い装甲の前にはほとんど効果がないみたいだ!
「マスター、右です! 次、瓦礫を飛び越えて! 左!」
コードの的確なナビゲーションに従って、私は必死で瓦礫の中を駆け抜ける! 目指すは、逃げ遅れた子供たちと、クラスメイトの女の子、そして……あの、足を挫いて動けない残念エリート・マエガミ先輩の元だ!
「きゃあっ!」
足元の瓦礫に躓き、派手に転びそうになる私! その瞬間、背後から風の魔法が巻き起こり、私の体をふわりと支えてくれた!
「ちっ……! ボサッとするな、マキコマレ君! 足手まといだぞ!」
見ると、顔面蒼白ながらも、杖を構えて私を助けてくれたのは、マエガミ先輩だった!
「マエガミ先輩! 助かったけど、足は!?」
「こ、これくらい、エリートたる私には何でもない! それより、早くあの子たちを!」
強がっているけど、足はやっぱり痛そうだ。でも、今は彼のツンデレに感謝!
なんとか子供たちとクラスメイトの元へたどり着き、崩れかかった屋台の柱から彼女を引っ張り出す! 男の子は泣きじゃくっている。
「大丈夫だからね! もう少しの辛抱だよ!」
私が必死で励ましている間にも、ゴローはすぐそこまで迫ってきていた!
「解析完了!」コードが叫んだ!「対象『番犬ロボ・ゴロー』の弱点を特定! 背面装甲の一部、ちょうど首の後ろあたりにある制御AIコアユニットです! あそこを破壊すれば、機能停止するはず!」
やった! 弱点が分かれば!
「しかし!」コードはすぐに絶望的な情報を付け加える。「コアは多重の防御フィールドで保護されており、さらに旧式AIの暴走により、予測不能な防御パターンを展開しています! 通常の魔法攻撃でコアを破壊できる確率は……計算上、0.5パーセント以下です!」
「低すぎでしょ! ほぼ無理じゃない!」
「いえ、マスター! まだ可能性はあります!」コードのレンズが、私を捉えた。「私の分析によれば! マスター・ユルリが持つ、あの不思議な力! それが、ゴローの旧式AIの制御システムに、予期せぬバグを引き起こす可能性があるのです!」
「そんな力ないわよ! 私にあるのはドジと不幸を呼び寄せる力くらいよ!」
私が全力で否定すると、コードは冷静に反論した。
「否定しないでください、マスター。データは客観的な事実を示します。思い出してください。魔法薬学実習での原因不明の『へんしんアワアワ』大量発生。凶暴なはずの魔獣『モフ』が一瞬であなたに懐いたこと。そして、中間試験でのありえないレベルの幸運(ボーナス点の連続)。これらは全て、マスターが持つ、通常の法則では説明できない『何か』が周囲に影響を与えた結果です。論理回路が単純な旧式AIであるゴローになら、その『何か』…マスターの不思議な力が干渉できる可能性は高い! そう分析します!」
「う……言われてみれば、そんなこともあったような……?」
ユルリは、コードの指摘にぐうの音も出なかった。
「つまり! マスターのその不思議パワーでゴローの動きを一瞬でも止め、防御フィールドを弱めることができれば! その隙にコアを集中攻撃することで、撃破できる可能性が……推定18パーセントまで上昇します!」
「まだ低いけど、さっきよりはマシ!?」
「作戦プランを立案、共有します!」コードは、通信機能で、近くで奮闘している先生たちや、いつの間にか駆けつけていたガンモちゃん(手には怪しげなメカを持っている!)、そしてマエガミ先輩に、瞬時に作戦内容を伝達した!
「フェーズ1! 先生方でゴローの注意を引きつけ、攻撃を防ぐ壁となってください!」
「フェーズ2! ガンモ・ドワーフスキー氏! あなたのその発明品(おそらく危険物)で、ゴローの動きを一時的に止めてください!」
「フェーズ3! キラ・レオナルド・マエガミ氏! あなたの風魔法で、コア周辺の防御フィールドをこじ開けてください!」
「そしてフェーズ4! マスター・ユルリ! あなたの不思議パワー(歌でも光でも何でもいいです!)で、ゴローのAIを混乱させ、動きを止めるのです! その隙に、全員でコアを総攻撃します!」
「な、なんだかよく分からんが、面白そうじゃねえか!」ガンモちゃんがニヤリと笑う。
「フン……この私が、フクロウの指示で動くなど……屈辱だ……! だが、まあ、仕方あるまい!」マエガミ先輩も、ぶつぶつ言いながら杖を構える。
先生たちも、頷き合って覚悟を決めたようだ!
「よし、行くぞ!」 作戦開始! 「うおおお! みんな、ユルリ君を守れ!」先生たちが、決死の覚悟で防御魔法を展開し、ゴローのレーザー攻撃や突進を受け止める! 「くらえ! ガンモちゃん特製! 超強力・電磁パルスハンマー!」ガンモちゃんが、ハンマー型のメカを地面に叩きつけると、バチバチッ!と激しい電磁パルスが発生! ゴローの動きが、一瞬ガクンと鈍った! 「今だ! エレガント・ウィンド・スラッシュ!」マエガミ先輩が、風の刃を連続で放ち、コア周辺の防御フィールドに亀裂を入れる!
「マスター! 今です! あなたの力を!」
コードが叫ぶ! みんなが作ってくれた、チャンス!
私はゴクリと唾を飲み込んだ。怖い。足が震える。でも、みんなが私を信じてくれてる! コードも、私のヘンテコ魔力…じゃなくて、不思議な力に可能性を見出してくれた!
(お願い……! 届け、私の気持ち!)
私は、何をすればいいのか分からないまま、ただ強く、強く念じた。
(止まって! もう誰も傷つけないで! お願いだから、止まって!)
祈るような気持ちで、自然と口をついて出てきたのは、あの時、迷いの森でモフに歌ってあげた、古い古い子守唄。おばあちゃんが教えてくれた、優しくて、温かい、不思議なメロディ。
私の、決して上手とは言えない、少し震えた歌声が、破壊音と怒号に満ちた戦場に、まるで清らかな光が差し込むように、静かに、でも確かに響き渡っていく。
それは魔法ではないはずなのに、聞く者の心を穏やかにするような、不思議な力を持っている気がした。
そして、その歌声は、暴走する番犬ロボ・ゴローにも、確かに届いたようだった。
「ピ……ガガ……キケン……? ヒト……コワ……クナイ……?」
ゴローの動きが、完全に止まった! 胸のコアの赤い光が、まるで戸惑うように、チカチカと優しく明滅し始める。破壊の衝動が、私の歌声に浄化されていくみたいに……。
マエガミ先輩がヒビを入れた防御フィールドも、歌声に呼応するように、フッと弱まっていく!
「効いてる!」
「すごいぞユルリ君!」
「今だ! コアが剥き出しだぞ!」
仲間たちの声が聞こえる!
「今です! 全員、コアに最大攻撃を集中!」
コードの、勝利を確信したような声が響く!
「「「おおおおおっ!!」」」
先生たちの合体魔法が! ガンモちゃんが投げつけた、なんかよく分からないけどすごい威力の爆弾(やっぱり爆発した!)が! マエガミ先輩が最後の力を振り絞って放った、渾身の風の槍が!
そして、私の歌声に乗った不思議な力が――剥き出しになったゴローの制御コアへと、一斉に叩き込まれた!
パキィィィィィィィィン!!!!
ガラスが砕けるような、甲高い音が響き渡る!
番犬ロボ・ゴローの胸のコアが、粉々に砕け散ったのが見えた!
瞬間、ゴローの体から赤い光が完全に消え、その巨大な体は、まるで糸が切れた操り人形のように、ゆっくりと前のめりに傾いていく。
ズゥゥゥゥゥゥゥゥン……!!!!
地響きを立てて巨体が地面に倒れ伏し、そして、今度こそ本当に、完全な静寂が訪れた。
「……やった……の……?」
私は、歌い終えて、その場にへたり込んだ。体中の力が抜けていく……。
周りを見れば、ガンモちゃんも、マエガミ先輩も、先生たちも、みんなボロボロになって、地面に座り込んでいる。誰もが、信じられないといった表情で、動かなくなった巨大なカラクリを見つめていた。
「作戦成功。脅威ターゲット、完全に沈黙を確認」
コードの声だけが、静かに響いた。
「皆さん、素晴らしい連携でした。特にマスターの歌声……やはり非論理的ですが、驚異的な効果でしたね。私のデータベースに『対旧式AI用・最終兵器:ユルリの子守唄』として登録しておきましょう」
(だから、なんでそう物騒な名前つけたがるのよ……)
でも、今は、そんなツッコミはどうでもよかった。
やったんだ。私たち、勝ったんだ!
落ちこぼれ魔法使いと、ボケAI使い魔、ツンデレエリートに、パワフルなドワーフ娘、そして頼りになる先生たち。普段はバラバラで、問題ばかり起こしている(主に私が)私たちだけど、力を合わせれば、こんなすごいことだってできるんだ。
そんな、ちょっとだけ誇らしいような、温かい気持ちが、疲れた心にじんわりと広がっていくのを感じた。
私は、隣で同じように座り込んでいるマエガミ先輩と、なぜか目が合った。彼は、フンッ、とそっぽを向いたけど、その口元が、ほんの少しだけ緩んだように見えた。