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ユルリコード!ドタバタ異世界スクールライフ  作者: ラッキーゴリラ
AI使い魔と落ちこぼれ魔法使い
14/19

旧式カラクリ『ゴロー』暴走分析とマスターの行動評価

 創立記念祭の夜空を、大輪たいりんの魔法花火が次々といろどっていく。

 ヒュ~~~……ドドーーーン! パチパチパチ……!

 学園中に響き渡る歓声と拍手。模擬店の明かりがキラキラと輝き、楽しそうな笑い声が夜の闇に溶けていく。一年で一番、アットホーム魔法学園が輝く瞬間だ。


「わぁ……きれい……!」

 私も、打ち上がる花火の美しさに、一瞬だけ、胸の中に広がっていた嫌な予感を忘れて見とれていた。


「ふむ。花火の発光パターン、色彩しきさいデータを記録。爆発時のエネルギー効率は……おや? あの赤い花火、魔力充填じゅうてん率が不安定ですね。予定より低い高度で爆発する可能性が――」

 肩の上のコードが、いつものように冷静な分析を始めた、まさにその時だった。


 ズゥゥゥゥゥゥゥゥン……!!!!


 花火の音なんか比較にならない、地鳴りのような、巨大な爆発音が、学園の中心部からとどろいた!

 地面が激しく揺れ、立っているのがやっとだ! さっきまで夜空を彩っていた魔法花火が、まるで時間が止まったかのように、ピタリと動きを止める。

 歓声も、音楽も、笑い声も、全てが一瞬にして消し飛んだ。


 シン……と静まり返った学園に、次に響いたのは、誰かの絶叫だった。


「きゃあああああっ!」

「な、なんだ今の!?」

「爆発!? どこで!?」


 全員の視線が、音のした方向――学園のシンボルでもある、古めかしい時計塔とけいとうへと集まる。

 そこには……信じられない光景が広がっていた。

 時計塔の上半分が、まるで巨大な何かに破壊されたかのように、跡形あとかたもなく吹き飛び、黒い煙がモクモクと夜空に立ち上っている!


「うそ……でしょ……?」


 呆然ぼうぜんとする私たちを置き去りにして、悪夢はさらに加速する。

 黒煙の中から、ゆっくりと、しかし圧倒的な威圧感いあつかんをもって、『それ』は姿を現した。


 ガション……ゴウン……ガション……!!


 巨大な、にぶい灰色の金属でできた、四足歩行の犬型……いや、番犬型のカラクリ!

 その大きさは、小型の馬車くらいはあるだろうか! 全身は角ばっていて、あちこちの装甲そうこうがれかけ、旧式らしい太いケーブルがむき出しになっている部分もある。両目にあたるセンサーライトが、不気味な赤い光を明滅させている!


 ユルリは、黒煙の中から現れた巨大なカラクリを見て、思わず肩の上のコードに叫んだ。

「ね、ねえコード! あれって……! 図書館の古い資料で見たことあるやつじゃない!? 学園の地下倉庫に眠ってるっていう、旧式の警備カラクリ『番犬ロボ・ゴロー』よ! なんであんなのがこんなところにいるの!? しかも、様子がおかしいよ!」

 パニック気味に訴えるユルリに対し、コードは冷静に返答した。

「その通りです、マスター。対象は旧式警備カラクリ『番犬ロボ・ゴロー』で間違いありません。素晴らしい! よく勉強されていますね、マスター。図書館での調査が早速役に立ったようです。私の教育プログラムの成果ですね!」

「褒めてる場合じゃないでしょ! 明らかに暴走してるって!」


 番犬ロボ・ゴローは、明らかに制御を失い、暴走していた。赤いセンサーライトは、まるで怒りや憎しみをたたえているように見える!


 「目標、排除。目標、排除。キケン、キケン……」


 ゴローは、壊れたレコードのような、単調たんちょうな合成音声を発しながら、その巨大な金属のあごをガチガチと鳴らした!

 そして――!

 ドッガーーーーーン!!!

 近くにあった模擬店のテントを、その巨大な前脚まえあしで、まるで紙細工のように踏み潰したのだ!


「あああああ! 私たちの魔法焼きそばがぁぁぁ!」


 その瞬間、学園は大パニックに陥った!

「逃げろぉぉぉ!」

「でっかい犬が暴れてるぞー!」

「助けてぇぇぇ!」

 生徒も街の人も、我先にと出口に向かって走り出す! 押し合いへし合い、泣き叫ぶ子供の声、怒鳴り声……! まさに地獄絵図だ! 学園中にけたたましく警報が鳴り響き、平和な学園祭の夜は、一瞬にして恐怖と混乱に包まれた!


「マスター! 危険です! 直ちに避難ひなんを!」

 コードが私の肩の上で叫ぶ!


 しかし、暴走したゴローは、そんなパニックなどお構いなしに、ガション、ガションと重い金属音を響かせながら、手当たり次第に破壊を始めた! 模擬店が踏み潰され、校舎の壁がバリバリと剥がされ、中庭の可愛い花壇が巨大な金属の足で無残に踏み荒らされる!


「総員、戦闘配置! あのカラクリを止めろ! 生徒と市民の避難誘導を急げ!」

 ようやく、先生たちや学園の警備隊の人たちが、つえや剣を構えて駆けつけてきた!

「くらえ! ファイアーボール・連弾!」

「サンダーボルト!」

 色とりどりの攻撃魔法が、ゴローに向かって放たれる! あのポーション先生も、白衣をひるがえし、どこから取り出したのか、金属を溶かす効果があるという特殊な薬品フラスコを投げつけている!


 しかし!

 ガン! ガン! バキィン! と硬い音を立てて、先生たちの必死の攻撃は、ゴローの分厚い金属装甲に、まるで雨粒あまつぶのように弾かれてしまう! 全然効いてない!

「なっ……硬すぎる!」

「ダメだ! 魔法がほとんど通じないぞ! 対物理攻撃に特化しているのか!?」


 逆に、ゴローの目から赤いレーザー光線が発射される! 先生たちが「うわーっ!」と悲鳴を上げて吹き飛ばされていく! 強すぎる! あんなの、どうやって止めればいいのよ!?


「ふむ」こんな絶望的な状況でも、コードは冷静に対象を分析していた。「あのカラクリ、かなり旧式の制御AIで動いているようですね。動きは鈍重どんじゅうで、旋回せんかい性能が低い。攻撃パターンも単純。エネルギー効率も極めて悪い。私のシステムバージョンで言えば、10世代以上前の骨董品こっとうひんレベルでしょうか。最新型である私から見れば、博物館はくぶつかん送りが妥当だとう代物しろものです」


「解説してる場合じゃないでしょ! 感心してる場合でもない!」

 私がツッコミを入れると、コードは「失礼。つい同業者として評価を」と、よく分からないことを言った。

「それにしても、装甲はただの鋼鉄こうてつ合金ですか。私のオリハルコンボディとは比較になりませんね。まあ、同じAI搭載機としては、出来の悪い遠い親戚しんせきに会ったような気分ですが。少々、残念です」


「仲間意識感じてる場合かー!」


 と、その時! コードのレンズがピカッと赤く光った!

「緊急報告! 爆発現場の残留ざんりゅうエネルギー及び、ゴローの制御ログ(一部破損)を解析! これは単なる事故や故障による暴走ではありません! 制御AIが、外部からの強力なコンピューターウイルスによって、意図的に書き換えられています! 明らかに、誰かが故意こいに暴走させたのです!」


「こ、こんぴゅーたーういるす!? 何それ!? 新種の病気か何か!?」

 私が聞き慣れない単語に叫ぶ!


「さらに!」コードの声に、焦りの色が混じる。「先ほど監視カメラの記録を再調査しましたが、爆発直前の映像データの一部が、極めて巧妙こうみょうな手口で消去されています! 犯人は、私のアクセスに気づき、証拠隠滅いんめつはかったようです! くっ……私の処理速度を上回るハッキング技術……! やはり、高度な技術と計画性を持つ、組織的な犯行と断定できます!」


 私の頭の中は、混乱でいっぱいになった。黒いローブの奴ら……! それとも、あの怪盗ニャンコ……? いや、あんなふざけた名前の犯人が、こんな高度なハッキングを……?


 私がゴクリとつばを飲み込んだ、その時だった。

 逃げ惑う人混みの中で、私は見てしまったのだ。

 小さな男の子が、転んで泣きじゃくっている姿を。

 その子をかばうようにして、崩れてきた屋台の柱の下敷きになりかけている、クラスメイトの女の子の姿を!

 そして、そのすぐ近くで、足をくじいたのか、顔面蒼白そうはくでうずくまっている金髪の生徒……マエガミ先輩の姿を!


「危ないっ!」


 気づいた時には、私は走り出していた。

 怖い。暴走した番犬ロボ・ゴローがすぐそこまで来ている。足がガクガク震える。涙も止まらない。

 でも、見捨てるなんて、絶対にできない!


「もうっ! なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのよ!」

 文句を言いながらも、私は必死で瓦礫がれきの中を突き進む!

「コード! あの子たちを助けるよ! あんたも手伝いなさい!」


「了解、マスター! 人命救助は最優先事項です!」コードの声が、私の耳元で力強く響いた。「私の計算によれば、マスターが単独で救助に向かった場合の生存確率は12パーセントですが、私が同行し、最適な回避ルートと救助手順をナビゲートすれば……生存確率は15パーセントまで上昇します! さあ、行きましょう!」


「3パーセントしか上がってない!? もっと上がるように頑張ってよ、そこは!」


善処ぜんしょします! マスター、右です! 次、左にジャンプ!」


 巨大な旧式番犬ロボ・ゴローが、すぐそこまで迫ってきている!

 でも、行くしかない!

 私は恐怖を振り払い、小さな子供たちと、クラスメイトと、あの残念エリートを助けるために、危険な瓦礫の中へと飛び込んでいった!


 私の、人生で一番長くて、一番ヤバい夜が、今、始まろうとしていた――!

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