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ユルリコード!ドタバタ異世界スクールライフ  作者: ラッキーゴリラ
AI使い魔と落ちこぼれ魔法使い
12/19

学園祭準備:集団作業における非効率性の観測

 キラ・レオナルド・マエガミ先輩が、氷漬けアフロ紙吹雪まみれの雪だるまと化して保健室に運ばれていってから数日。

 中間試験も終わり(結果は聞かないで!)、アットホーム魔法学園には、年に一度のビッグイベントに向けて、なんだかソワソワ、ウキウキした空気に包まれ始めていた。


 そう、創立記念祭だ!

 模擬店! ステージ発表! クラスごとの出し物! 一週間、授業が全部潰つぶれてお祭り騒ぎになる、学園最大のイベント!


「学園祭かぁ! 楽しそう!」

 お祭り好きの血が騒ぐのか、私もなんだかワクワクしてきた! 去年は入学したばかりで、よく分からないまま終わっちゃったけど、今年は思いっきり楽しむぞー! 私、ユルリ・マキコマレは、中間試験のトラウマ(とコードのブートキャンプの恐怖)を一時的に忘れ、胸を躍らせていた。


「学園祭…なるほど。非生産的な活動に見えますが、生徒間のコミュニケーション促進、及び地域社会との連携強化という側面では、一定の教育的効果が期待できるのかもしれません。データ収集の対象として非常に興味深いですね」

 肩の上のコードも、なんだかいつもよりレンズがキラキラしている。こいつも意外とお祭り好きなのかも?


 さて、そんな浮かれ気分の私を待っていたのは、クラスでの出し物決めという、最初の、そして最大の難関だった。

 うちのクラス……アットホーム魔法学園の中でも、特に自由奔放じゆうほんぽうというか、個性が大爆発しているメンバーが集まっていることで有名なのだ。当然、会議は開始早々、カオスと化した。


「はいはーい! 絶対『空飛ぶイカ焼き屋台』がいいと思うの! 私がほうきで飛びながらソースかけるから!」

「却下! あんたがやったら、ソースじゃなくて火の玉が飛んでくるわ!」

「じゃあさー、クラス全員で巨大迷路作らない? ゴールには先生の秘密ブロマイド(激レア)を置くとか!?」

「却下! 先生のブロマイドなんて誰も欲しがらないし、そもそも迷路作る予算がない!」

「でしたら皆様! 私が考案した、愛と魔法のミュージカル『ロミオとジュリエットと時々ゴーレム』を上演するのはいかがでしょう! 主役はもちろん私!」

「却下! あんたのそのナルシストっぷりが、まず上演禁止レベルよ!」

「やっぱり、ここはシンプルに『体力測定!握力あくりょくチャレンジ』だろ! 俺のこの筋肉が火を噴くぜ!」

「却下! 誰もあんたの筋肉に興味ないから!」


 出るわ出るわ、実現不可能か、あるいは誰得だれとく?なアイデアばかり! 担任の先生も、もはや「みんなの自主性を尊重そんちょうします……」と力なくつぶやき、窓の外を眺めている。

 だめだこりゃ……。このクラス、永遠に決まらない気がする……。ユルリは遠い目をした。


 結局、数時間に及ぶ不毛な議論(という名の言い争い)の末、しびれを切らしたクラス委員長が、「もう、これで決めよう!」と取り出したのは……なんと、ただの『あみだくじ』!


 そして、運命のあみだくじの結果、うちのクラスの出し物は……『魔法×ホラー!ドキドキ☆マジカルお化け屋敷』に決定! ……まあ、一番まとも……なのかな?


 ホッとしたのもつかの間、さらなる悲劇が私を襲う!

「じゃあ、大変だけど、実行委員長は……ユルリ、君に決定!」

「へ?」

 なんと、あみだくじの終点には、クッキリハッキリと私の名前が! しかも『委員長』という、最も面倒くさそうな役職つきで!


「ちょ、ちょっと待って! なんで私なの!?」

「まあまあ、ユルリならなんか面白そうだし!」

「君のあのフクロウがいれば、色々便利そうじゃないか?」

「よろしく頼むぜ、委員長!」

 クラスメイトたちの無責任な拍手と期待の視線が、私にグサグサ突き刺さる!

 押し付けられた! 絶対に押し付けられた! 私、リーダーとか一番向いてないのにぃぃぃ! ユルリは頭を抱えて絶望した。


 そんな私を見て、肩の上のコードが、なぜかキリッとした雰囲気で言った。

「マスター、これはチャンスです! あなたの潜在的なリーダーシップ能力を開花させ、クラスという小規模な組織を効率的にマネジメントする、絶好の訓練機会です! ご安心ください、この私が、超絶AIパワーで完璧にサポートいたします!」


 コードはそう言うと、目にも止まらぬ速さでアームを動かし、空中に3Dホログラムの計画書を映し出した!

 『マジカルお化け屋敷・完全攻略&感情曲線最適化マニュアル Ver.1.0』と題されたその計画書には、クラス全員の性格・能力・相性まで分析した完璧な役割分担、コンマ1秒単位で管理された準備スケジュール、1銅貨単位まで計算された予算表(材料費より人件費(時給換算)の方が高い)、さらには予想されるトラブル(主に人間関係のもつれ)とその対処法(好感度パラメータ操作による解決、あるいは物理的な強制排除)まで、およそ人間には実行不可能なレベルでびっしりと書き込まれていた!


「……す、すごい……けど……」

 あまりの完璧さと情報量、そして内容のヤバさに、私だけでなく、クラスメイトたちも完全に引いている。


(これ、絶対うまくいかないやつだ……!)

 私の嫌な予感は、今回も的中することになる。


 現実は、コードの完璧すぎる計画通りに進むほど、甘くはなかったのだ!


 買い出し班は、「予算内で最大の恐怖効果を発揮するアイテムを!」と指示されたはずなのに、「だって、これが一番フワフワで可愛かったんだもん……」と言い訳しながら、予算の大半をファンシーすぎる巨大クマのぬいぐるみ(お化け役がこれを着るらしい)に使い込んで帰ってきた!


 内装班は、「とにかく暗く! 不気味な雰囲気を!」と指示されたはずなのに、「暗いだけじゃ映えしないでしょ? やっぱりキラキラ☆イルミネーションがなくっちゃ!」と、教室の壁や天井を大量の星形ミラーボールと極彩色のLEDライトで飾り付け始めた!


 小道具班には、もちろんガンモちゃんが「面白そうだから手伝ってやるぜ!」と乱入! 「リアルな恐怖こそ至高!」と言って、本物の動物の骨(何の骨かは不明、ガンモちゃん曰く「裏庭で拾った」)を天井から吊るそうとしたり、踏むと本物の冷気(マイナス50度!死ぬわ!)が噴き出すトラップを作ろうとしたりして、そのたびにコードに「却下! 倫理りんり規定及び学園法規、並びに生命維持の観点から許可できません!」と止められている。


 お化け役の練習に至っては、もう目も当てられない。「う、うらめしや~……(超小声)」と、全く怖くない! むしろ、そのやる気のなさが、別の意味で背筋を寒くさせるレベルだ!


「マスター……」コードが、心なしかノイズ混じりの電子音で報告してきた。「計画からの遅延率、現在82パーセント。このままでは、お化け屋敷は来世紀の記念祭にすら間に合わない計算になります。提案します。非協力的なメンバーには、私の開発した『やる気アップ☆強制電流マイルドタイプ』を流して、作業効率を無理やり向上させるというのはどうでしょう?」


「そんなことしたら、私がクラス全員から物理的に排除されるわよ! ダメ絶対!」

 私は、バラバラすぎるクラスメイトたちをまとめようと、必死に声を枯らし、走り回り、時には涙目で訴えかける。ああ、なんで私がこんな苦労を……。胃が痛い……。委員長なんて、引き受けるんじゃなかった……。


「ふむ、人間という集団における『モチベーション』という概念は、かくも制御困難で非効率的なものなのですね。非常に興味深いデータが蓄積ちくせきされていきます」コードは、私の苦労など全く意に介さず、分析に没頭している。「マスターのストレスレベルがレッドゾーンに近づいています。リラックス効果及び集中力向上が期待できる虹色スライム(最新フレーバー:無味無臭・改)を摂取しますか?」


「いらないって言ってるでしょ! そのスライム自体が私のストレス原因だって、いい加減学習して!」


 そんなドタバタな準備期間の裏で、コードは時々、学園のネットワークなどをチェックしては、ピコピコと小さな警告音を鳴らしていた。


「おや? また学園の警備システムに、誰かが不正アクセスを試みた形跡けいせきがありますね……。手口が少しずつ洗練せんれんされてきています。まあ、今回も失敗に終わっていますが。しつこい犯人ですね」

「ふーむ……最近、特定の研究室から、魔法薬の希少きしょうな材料や、小型の魔道具が、微量びりょうずつですが継続的に紛失ふんしつしているというデータがありますね。内部犯の可能性も考慮すべきでしょうか」

「ネットの怪しい匿名掲示板にて、『創立記念祭の夜、アットホーム魔法学園のお宝『伝説のレシピ』をいただくニャ! 怪盗ニャンコ、予告状だニャン!』という書き込みを発見。発信元の特定は困難。文体及び内容から、高度な知能犯である可能性は低いと判断されますが、念のため監視対象リストに追加します。……それにしても、怪盗ニャンコ? 非効率的かつ、若干可愛いらしいネーミングですね」


 コードは、これらの情報を重要視はしていないようだったが、ユルリの胸には、なんだか小さなトゲが刺さったような、嫌な予感がチリチリと残った。伝説のレシピ、という言葉が妙に気になった。


 クラスのお化け屋敷は、相変わらずのカオス状態ながらも、みんなで(主に私が怒鳴ったり、ガンモちゃんが物理的に解決したりしながら)作業するうちに、不思議と少しずつ、ほんの少しずつだけど、形になってきていた。ペンキまみれになって、くだらないことで笑い合うクラスメイトたちを見ていると、大変だけど、なんだか「文化祭っぽい!」って感じで、ちょっとだけ楽しいかも、なんて思えてきたりもした。


 しかし、コードだけは、クラスメイトたちの非効率な行動データを収集するかたわら、学園ネットワークに記録されたいくつかの異常なログ(記録)や、収集した噂話のデータポイントが、統計的に無視できない確率で特定の時間・場所に関連していることに気づき始めていた。高性能AIの論理回路が、かすかな、しかし無視できない警報アラートを鳴らし始めているのを、ユルリは知るよしもなかった。


 アットホーム魔法学園、創立記念祭当日まで、あと数日。

 私たちのドキドキ☆マジカルお化け屋敷は、果たして無事に完成するのか?

 そして、私の胸騒ぎの正体は……?


 お祭り本番への期待と、ほんの少しの不安を抱えながら、準備の夜はけていくのだった。

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