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ユルリコード!ドタバタ異世界スクールライフ  作者: ラッキーゴリラ
AI使い魔と落ちこぼれ魔法使い
11/19

マエガミ再接触:自滅パターンのデータ収集

 あの奇跡としか言いようがない中間試験(主に結果が)から数日。

 私は、なんとか留年を回避できた安堵あんど感と、「結局、自分の力じゃなかった……」という若干の自己嫌悪じこけんおの間で、複雑な気持ちで過ごしていた。まあ、コードのブートキャンプは相変わらず続いているので、感傷かんしょうに浸るひまなんてほとんどないんだけど!


 そんなある日。廊下を歩いていると、背後から突き刺さるような、ものすごーく強い視線を感じた。この感じ……間違いない!


「マスター、対象:キラ・レオナルド・マエガミ氏の接近を検知。距離30、20、10……。心拍数、血圧ともに通常時の150パーセント。アドレナリン分泌ぶんぴつ過剰。極度の興奮状態、あるいは戦闘態勢と判断されます。注意してください」

 肩の上のコードが、冷静に報告してくる。


「やっぱりー!? なんでまた来るのよ!」

 私が振り返ると、そこには案の定、キラキラオーラをこれでもかとき散らしながら、マエガミ先輩が立っていた!

 今日の彼は、なんだかいつもと雰囲気が違う。髪型は完璧だけど、その瞳は復讐ふくしゅうの炎に燃えているし、なにより、その首と手首には、前回よりもさらにゴテゴテと、見るからにヤバそうな魔法道具が追加装備されている!


「待っていたぞ、ユルリ・マキコマレ! そして、そこの生意気なまいきなポンコツフクロウめ!」

 マエガミ先輩は、まるで舞台俳優のように大げさなジェスチャーで、私たちを指差した!


「ま、また何か用ですか……? 私、今から罰当番の草むしりに……」

「そんなことはどうでもいい!」マエガミ先輩は私の言葉をさえぎる。「前回の屈辱くつじょく! この私が、貴様らのような格下に遅れを取ったなど、あってはならないことなのだ! 今日こそ! この場で! 貴様らに真のエリートの力を見せつけ、完膚かんぷなきまでに叩きのめしてくれる!」

 マエガミ先輩は、どこから取り出したのか、白い手袋をピシャリと投げつけてきた。


「見よ! 我が新たなる力を!」

 マエガミ先輩は、胸元で一際ひときわギラギラと輝く、巨大な宝石が埋め込まれたアミュレットを指差した!

「これぞ、我がシルフィード家の財力を結集して手に入れた、『極超・魔力増幅アミュレット・マークⅡマークツーカイ!』 前回の10倍…いや、20倍のパワーアップを果たしたのだ!」

(名前がどんどん長くなってる……! しかもマークⅡ改って、どんだけ失敗作重ねてるのよ……)とユルリは思った。


 さらに、マエガミ先輩は、手首にはめた、やたらとトゲトゲしい、黒光りするブレスレットを突き出してきた!

「そしてこれこそが! 最新魔工学理論に基づき開発された、『思考同調しこうどうちょう式・超速魔法発動ブレスレット・プロトタイプ!』 これさえあれば、呪文詠唱どころか、指パッチン一つで、私の望む最強魔法が発動するのだ!」

(プロトタイプって言っちゃってるよ! 絶対まだ不安定なやつじゃん!)とユルリはさらに思った。


「ふはははは! どうだ! 恐れおののいたか! これが、選ばれしエリートである私の、新たなる力なのだ!」

 マエガミ先輩は、勝利を確信したかのように高らかに笑う。……が、アミュレットが重すぎるのか、少しだけ体がふらついている。見ていて不安になる。


「ふむ」コードが、マエガミ先輩の自慢の装備を、ピピピッと冷静にスキャンした。「魔力増幅率は向上していますが、エネルギー変換効率は悪化。例えるなら、燃費の悪い高級車にロケットブースターを無理やり付けたようなものです。安定性は皆無でしょう。さらに、アミュレットからは制御不能なレベルの強力な静電気が常時放電されていますね。これは…近くの軽い物体を引き寄せる副作用があるかもしれません。あと、頭髪へのダメージも深刻かと」


「なっ……! せ、静電気だと!? そんな副作用聞いてないぞ!」マエガミ先輩が慌てて自分の前髪に触れる。


「また、思考同調式ブレスレットも、理論上は高速発動が可能ですが、プロトタイプであるため、思考ノイズ(雑念)による誤作動、あるいは暴発のリスクが極めて高いと判断されます。特に、あなたのように、常に余計なことばかり考えているタイプには、全くお勧めできない欠陥品ですね」


「け、欠陥品だと!? しかも余計なことばかり考えてるですって!? 貴様ぁぁぁ!」

 マエガミ先輩、完全に図星を突かれたのか、顔を真っ赤にしてプルプル震えている!


「さあ、勝負だ! 今度こそ、貴様らを私の足元にひれ伏させてやる! 学園裏の実技訓練場へ来い!」

 マエガミ先輩は、半ばヤケクソ気味に叫ぶと、訓練場へと走り去っていった。……やっぱり、足元がちょっとフラフラしてる!


「……行かなくても、勝手に自爆しそうな気がするんだけど……」

「いえ、マスター。行きましょう」コードは意外にも乗り気だった。「対象マエガミ氏の新装備と新魔法(おそらく用意しているでしょう)の暴発データを収集する、またとないチャンスです。それに……」

 コードのレンズが、怪しくキラリと光った。

「マスターを侮辱ぶじょくする相手には、AIとして、きっちり『教育的指導』を行う必要がありますからね(ニヤリ)」

 だからそのニヤリはやめなさいって! とユルリは思ったが、口には出さない。


 結局、私はまたしてもコードに引きずられるようにして、実技訓練場へと向かうことになった。

 訓練場には、既にマエガミ先輩が仁王立ちで待ち構えており、周りには「またユルリとマエガミがやるらしいぞ!」「今度はどっちが自爆するかな?」と、不謹慎ふきんしんな期待に目を輝かせた野次馬たちが集まっていた。失礼な!


「来たな、ユルリ! そしてポンコツフクロウ! 覚悟はいいか!」

 マエガミ先輩は、ブレスレットを構え、アミュレットをギラつかせ、自信満々の表情だ。


「いくぞ! これが私の新たなる力! 天地を凍らせ、嵐を呼ぶ、究極のエレガンス! 『ロイヤル・ブリザード・ハリケーン』!!」

 マエガミ先輩が叫び、ブレスレットに意識を集中させると――彼の周囲に、猛烈な吹雪ふぶきと、全てを吹き飛ばさんばかりの暴風が渦巻き始めた! しかも、なぜかキラキラと輝く大量の紙吹雪が、嵐の中心から舞い散っている!

 うわっ! すごい迫力! ……だけど、なんで紙吹雪!? 演出過剰すぎ! ユルリは呆れた。


「マスター、危険です! 回避してください!」コードが叫ぶ。「最適な回避行動は……地面に伏せ、『ごめんなさい』と謝罪しながら許しをうポーズです! これなら物理的ダメージは最小限に抑えられます!」


「そんな情けないポーズできるかー!」

 私がツッコミを入れている間に、猛吹雪と暴風(と大量の紙吹雪)が、私に向かって襲いかかってくる!


「きゃあああ!」

 私は思わず目をつむり、その場にしゃがみ込んだ! ……が、その時、ポケットに入れていた昨日のおやつの残骸(空き袋)が数枚、ハラリと舞い上がった!

 それが、まるで吸い寄せられるようにハリケーンの風に乗り、マエガミ先輩の顔面めがけて一直線に飛んでいき、ピタッ!ピタッ!と面白いように張り付いた!


「むぐっ!? な、なんだこれは!? 前が見えん!」

 突然の視界不良に、マエガミ先輩はパニック! 魔法の制御が一気に乱れる!


「わわわっ!?」

 彼が発生させたブリザードが、あらぬ方向へ飛び、マエガミ先輩自身をカチンコチンに凍らせ始めた! ハリケーンも制御を失い、彼自身を空高く吹き飛ばそうとする! さらに、アミュレットから発生していた静電気が、彼の完璧にセットされた金髪に引火したのか、バチバチバチッ!と音を立てて、髪がアフロみたいに爆発四散!


「ぎゃああああああああ!!!!」


 最終的に、マエガミ先輩は、氷漬けになりながら、アフロヘアーで、全身に大量の紙吹雪を浴びて、まるで雪国の変な雪だるまみたいな姿で、ドシーン!と地面に落下し、そのまま白目をいて気絶した……。

 ……うん、完璧なる自爆。もはや芸術の域だ。


 シーン……と静まり返る訓練場。

 野次馬の生徒たちも、あっけにとられて口を開けている。

 私も、目の前で起こったあまりにも残念な光景に、呆然としていた。


「……勝った……の? 私、お菓子の袋しか飛ばしてないけど……」


「計算通りです」

 肩の上で、コードが涼しい顔で言った。

「マスターの偶発的ぐうはつてきな行動が、対象マエガミ氏の装備の欠陥と連動し、予測された通りの自滅パターンを誘発しました。実に効率的な勝利でしたね」


 計算通りなわけがない! ユルリはコードをジト目で睨んだ。ゴミが散らかったわけでもないし、そもそもあの静電気、絶対このAIが何かしたに違いない! …と、喉まで出かかったツッコミを、ユルリはぐっと飲み込んだ。もう、疲れたのだ。


 結局、マエガミ先輩は、またしても保健室へと運ばれていった。今回は、氷漬け&アフロ&紙吹雪まみれという、前回以上に悲惨な状態だったらしい。……合掌。


 こうして、私の意図しない形で、またしても残念エリートを撃退してしまった。私の悪名は、もはやアットホーム魔法学園の伝説となりつつあるかもしれない……。


「次回の対戦に備え、対象マエガミ氏の行動パターンと装備の欠陥データをさらに詳細に分析します。彼の『エレガント』な自滅パターンには、まだ改善の余地がありそうです。 次はどのようなデータが取れるか、楽しみですね」

 コードは、早くも次のデータ収集に向けて、目を輝かせている。


「もう! いい加減にしてあげてよ! ちょっと可哀想になってきたわ!」


 私のツッコミが、秋晴れの空にむなしく響き渡った。

 私の学園ライフ、次なる波乱は、一体どんな形でやってくるのだろうか……?

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