転移座標:アットホーム魔法学園 - 起動準備完了
私の名前はユルリ・マキコマレ! ピカピカの15歳! そして現在、アットホーム魔法学園の落ちこぼれ記録を絶賛更新中!
キラキラ輝く魔法使いになる! ……はずだったんだけどなぁ。現実は厳しい!
筆記試験は常に平均点の遥か下を低空飛行。実技の成績に至っては「測定不能」の伝説を打ち立て、ついたあだ名は『歩く災害』! ……もう、誰が呼んだか知らないけど、ひどすぎる!
いやいや、ちょっと待ってほしい。確かに、魔法薬を混ぜれば高確率で実験室がキノコ雲に包まれ(先生の眉毛がチリチリになったのは秘密)、箒に乗ればスタートと同時に制御不能ロケットと化して校舎の壁にめり込み(私の人型がクッキリ残った)、まあ、そんな感じの毎日だけど! でも! 決してワザとじゃないのだ! たぶん、これは何かの間違い! そう、きっと宇宙の法則が悪いんだわ! ……自分のせいだと頭では分かっているものの、素直に認めたら何かが終わる気がして、ユルリは頑なに現実から目をそらした。
このままじゃ、万年落ちこぼれ確定。それどころか、来年の今頃、私はこの学園にいないかもしれない……! うぅ、考えただけでお腹が痛い! 退学なんてなったら、田舎に帰って、一生ジャガイモ掘りだ……!
いや、まだだ! まだ諦めちゃダメだ、私! 落ちこぼれだって、ドジだって、貧乏だって、奇跡を起こせるかもしれないじゃない!
そう、私には残されている! 最後の、本当に最後の、崖っぷち一発逆転の秘策が!
それが――『使い魔召喚』! 使い魔を持てるチャンスは、人生でたった一度きりって言われてるんだ。その運命の一体で、もし、すっごく強くて、すっごく賢くて、すっごく頼りになる、まさにチート級の使い魔を召喚できれば……! 私のこのどん底人生を、バラ色のハッピーライフへと変えられるかもしれないのだ!
「ふふふ……これさえあれば……!」
ユルリは、ニヤリと怪しい笑みを浮かべながら、人目を避けて学園の隅っこにある古い実習室へと急いだ。懐には、私の未来を変える一冊の本。
表紙には、怪しいインクでこう書かれている。
『使い魔ガチャ☆レア度早見表つき』(※ガチャ結果は自己責任)
これは、先日、街の古本屋さんの、一番奥の、ホコリまみれの棚の、さらに隅っこで発見した、まさに運命の召喚マニュアルだ!
店主のヨボヨボのおじいさん曰く、「おお、その本かね? ワシも若い頃、これで伝説の不死鳥を召喚しようとしてな……まあ、結果は七面鳥だったか、ただの卵だったか、記憶が定かではないんじゃが……とにかく! 夢がある本じゃよ、うん!」とのこと。
でも、今の私には、この怪しいマニュアルと、自分の強運を信じるしかない!
今日は、一ヶ月に一度の満月の日。マニュアルによれば、超絶レアな使い魔を引き当てる確率が、ほんのちょっぴりアップする、スペシャルデーらしい!
「よし……!」
古い実習室の、重くてギィィ……と音を立てる扉を開ける。中は薄暗くて、カビとホコリの匂いがする。でも、今はそんなこと気にしてられない!
床に、ちょっと歪んだけど、愛嬌たっぷりの魔法陣をチョークで描き(美術の成績も悪い)、マニュアルの指示通り、召喚の準備を進める。
「触媒は、自分が一番大事にしているもの……。うん、決まってる!」
ユルリはゴクリと唾を飲み込み、震える手でポケットから『それ』を取り出した。これぞ、一週間、給食のパンの耳だけをかじって耐え抜き、ようやくゲットした超高級魔法プリン『ぷるぷるエンジェル・ドリーム』のおまけ! 七色に輝くプラスチック製宝石シールだ! これが今の私の全財産! 私の希望! 私の未来そのもの!
シールの安っぽさに一瞬我に返りそうになるが、ユルリはぶんぶんと頭を振った。大事なのは気持ちだ、この熱い思いが奇跡を起こすのだ、と自分に必死で言い聞かせた。
「いけーっ! 私の全財産! 最強で、できればイケメンで、お金持ちになれる能力を持った使い魔を連れてこーい!!」
魂を魔法陣の中央に、そっと置く。
さあ、いよいよだ!
私の人生を賭けた、一世一代の大博打!
最強の使い魔よ、私の元へ!
落ちこぼれビンボー少女の、最後の、本当に最後の望みを乗せて――いでよっ!
私は、マニュアル本をギュッと握りしめ、震える声で、召喚の呪文を唱え始めた――!