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髑髏のふたつの顔Sheet7:エピローグ

宴の数日後。

『エンター』開店早々、川口と育美が揃って来店した。


「いらっしゃい!今日は同伴?」

アキラが茶化す。

「いえ、たまたま入り口で会いました」

真面目に答える育美だが、冗談だと分かってるし嫌悪感を抱いてるワケでもない。


「俺達が来ないと始まらないでしょ。見たところ閑古鳥すらどっか行ってるみたいだし」

川口も茶化し返す。

「いやいや、たった今店開けたばかりでしょ。開店5分で顔出すの育美さんは別としてグッさんくらいだよ」

育美を別格にする意味は言ってるアキラも分からない。


そんな茶番な応酬のなか、川口が急に真面目腐った顔をしてのたまう。

「ぼくは店を開けたばかりのバーが好きなんだ」

「ウチはバーじゃなくスナックだけどね。てかそれ、チャンドラーでしょ?」

レイモンド・チャンドラーの小説『長いお別れ』の名台詞の一節である。

「お、アキラさんチャンドラー知ってるの?嬉しいねぇ」

「世代的に読んでるのは春樹訳の『ロング・グッドバイ』だけどね。ギムレットでも飲むかい?」

エルは二人が楽しそうに話してるのを聞いて、疎外感を覚えた。


「育美さんはチャンドラーとか読まないの?」

先日の"両面宿儺"の一件で育美の事を読書家認定している川口が尋ねた。

育美はさり気なくエルを一瞥した後、

「私はハードボイルドはあまり読んだこと無いですね」

と答えた。

本当はそれなりに読んではいるけれど、エルを仲間外れにしたくなかったのだ。


上機嫌の川口の事、長居するかと思いきや意外と早くにお暇した。

若い子たちに絡み続けるのもウザがられるだろうと自制してるのかも知れない。


しばらくして、アキラがエルに小声で尋ねる。

「何か怒ってる?」

「別に」

素っ気ない返し。不機嫌なのはアキラにも分かる。

育美はここは私の出番だなと察した。

というか、こうなる事は早くから予見出来てたからこそ留まっていたのだ。


「そうだエルちゃん、こないだ言ってたアニメ、ウチに観に来る?お泊りで」

「え?お泊り?!」

驚きを隠せないアキラ。

出会ってからこれまで片時も離れた事は無かったのだ。

「うん、行く!」

エルも乗り気だ。


育美には策略があった。

カップルの「一度別れるかもって危機を乗り越えてからの急接近」という定石を狙っているのだ。

さすがに今回別れの危機なんて無いのだが、アキラに多少なりとエルがいない寂しさを感じてもらえば成功といえる。それはエルにとっても同様だ。

この二人は絶対私が"育てる"のだと意気込む育美。

そんな決意をアキラとエルは知る由もなかった。


〈完〉


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