髑髏のふたつの顔Sheet4:もうひとつのInputBox
川口にLINEを送ると1時間と経たぬうちにすっ飛んで来た。
「おっ、育美ちゃん久しぶり!」
先週も会ってるハズだからいうほど久しぶりでもないが、面倒くさいからアキラは突っ込まずにいた。
「それで、何か分かったのかい?」
「これを見てください」
エルは先ほど作った新規ファイルを見せた。
パスワード入力のところで止めてある。
「ん?パスワード入力だね、コレが何か?」
いぶかしげな顔の川口。
「俺たちもまだ答えを教えてもらってないんだ」
アキラがそういうと、育美も頷く。
「コレがファイルのロックを解除する"本物"です!」
最近ミステリードラマにハマってるエルは、ここが主人公探偵のヤマ場だろうとちょっと気張って言ってみた。
アキラや育美に真相を告げてないのも、ドラマの定番だからだ。
「これが"本物"って事は例のファイルのやつはニセモノ?」
「そうです、じゃあ今度はその例のファイルを立ち上げます」
そういうとエルは昨日コピーしたファイルを立ち上げ、同様にパスワード入力の画面を見せた。
最初に気づいたのは育美だった。
「これ、さっきのと入力する欄?枠っていうのかな、位置が違いますね。さっきのはパスワードの文字の横にありましたよ」
「そういえばパスワードの文字のところ、"(P)"ってやつ、Pにアンダーバーが無いな」
アキラも細かい差異に気が付いた。
「ということは、これは何なんだ?」
川口が尋ねた。
「コレは巧妙に偽装されたInputBoxです!」
ドラマで使われそうな難解な言葉もあえて使いたいエルだった。
「そうか、インプットボックスか!…で、なにそれ?」
川口らしいノリになってきた。
「エクセルの関数のひとつです。でもこれはInputBox関数ではありません」
「あのぅ…エルさんや、何を言ってるのかワシにはさっぱり分からんのじゃが…」
何故か老人口調のアキラ。
エルの話をまとめるとこうだ。
一般的に使われる、いわゆるInputBox関数だと表示されるダイアログがあまりにロック解除のそれと異なるためすぐ違いに気付けるだろう。
ところがエクセルにはもうひとつInputBoxがある。それはApplicationオブジェクトのInputBoxメソッドで、それを使うと今回の様なロック解除によく似たダイアログが作れるのだという。
「見比べれば分かる様に、全く同じには出来ません。ただ単体で見た場合、よほど注意してないと気付かないレベルではあります」
エルも自身が見過ごしてたのが悔しかったのだろう。違和感を感じていたので尚更だ。
「なるほど、これがロック解除の偽物なのは分かった。でも、それが中身の改ざんとどう関係してくるんだい?」
アキラや育美も疑問に思ってた事を、川口が先陣を切って聞いた。
「偽のInputBoxなら複数のパスワードを設定する事が出来るから。つまりその後のマクロの組み方でパスワードの数だけ違う結果を見せることが可能になります」
「すごいな、でかしたぞエル!」
アキラの賛辞が心地よいエル。
「アキラさん、もっと褒めてあげて!頭ナデナデとか…」
カプ厨としての私利私欲にはしる育美。
「なるほど…後はどうやって違うパスワードを伝えたか、だな。関係者にあたってみるから、ちょっと時間くれないか」
川口はいつになく真剣な眼差しだ。
真面目にしてればまあまあイケオジじゃねぇかとアキラはぼんやり眺めていた。