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見知らぬ庭園の片隅で

 誰かのすすり泣く声に、目が覚めた。


 僕は目を開けて、あたりの様子をうかがう。目の前に、きれいに整えられた生垣が映った。


 顔を上げた僕の瞳から大粒の涙がこぼれ落ち、喉の奥からしゃくりあげるような声が流れていった。どうやら泣いていたのは僕らしい。袖で顔をぬぐうと、僕は立ち上がった。

 目の前の生け垣は、予想していたよりも大きかった。立ち上がってもまだ見上げることができる。



 ……いや違う。

 ()()()()()()のではなく、()()()()()()!?



 慌てて自分の体を見下ろす。なんだこれ、スカート? というか足! 足が短い!! 腕も短いし、手のひらは西洋人形みたいに小さくて丸くてかわいい!

 かつてないパニックに陥った僕の脳内に、ある言葉が浮かんできた。


『緊張した時は、深呼吸を三回しろ』


 空手の師範の言葉を思い出しながら、大きく息を吸う。

 一回、二回、三回。



 ――そうだ。僕は確か、女神さまのところで『転生』をして……。

 それで、この体に生まれ変わったというわけか。


 ということは、いま僕が立っているこの場所は、ダンジョンに囲まれた冒険者の街、『ヴァザリア帝国』である。僕は正面の生垣から目をそらすと、改めて周囲を確認する。


 そこには、きれいな西洋風の庭園が広がっていた。


 突き抜けるような青い空の下、色鮮やかな花々が競い合うように咲き誇っている。しばらく見とれてしまったが、この美しい庭も、ひょっとするとダンジョンかもしれない。そこら中に生えている美しい薔薇がモンスターの擬態である可能性もゼロではない。

 僕は周囲を警戒しながら、庭園を進んでいった。



 自分がなぜ()()()()()()()()()()のか。

 そして、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の気配を下半身から感じないことについては、後でじっくり、じっくりと考えることにしよう。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆



 二分ほど歩いて生け垣の中を抜けたとき、1キロメートルほど前方に大きな城が見えた。

 あれはダンジョン? それとも王様の居住エリア?

 どちらにせよ、一介の冒険者を志す僕には関係のない場所である。引き返すか、それとも横を通り抜けていくかを悩んでいたとき、背後から小さな叫び声が聞こえた。僕は振り返って耳を澄ませる。


 遠くの方から、「たすけて」という子供の悲鳴と、バシャバシャという水音が繰り返し聞こえた。僕はその音に向かって駆け出した。


 ――体が、めちゃくちゃ軽い。

 地面を踏み込むたびに、全身が前に向かって大きく跳ね上がった。


 生け垣を体当たりでぶち抜き、声に向かって、道なき道を進んでいく。40秒ほど走り抜けたとき、目の前に半径15メートルくらいの泉が現れた。

 泉のほとりで、金髪の少年が、かすれた悲鳴をあげていた。


「ああ、 あああ、

 だれか、たす、たすけて」


 少年に向かって駆けていく。僕に気づいた彼は、一瞬だけ引きつった顔を浮かべてから、泉の真ん中を指さして叫んだ。


「パーチ! パーチを助けて!!」


 どうやら、なにかがおぼれているらしい。目を向けると確かに、黒くて小さな生き物がばちゃばちゃと跳ねている。少年が無事であることを目視してから、僕は身にまとっていたドレスを脱いで、泉に足を踏み入れた。



 ――ちょっと待って、脱げない。

 なんだこれ、コルセット?

 やわらかっ、丈夫(じょうぶ)、手触り良い!



 前世では触れたこともない丈夫で高級な布地に一瞬だけためらったが、僕は気合を込めてドレスの中央をつかむと、ポテチの袋を開ける要領で、全力で左右に引っ張った。


『バチバチバチィ!!』


 とすさまじい音を立ててドレスの中央部が裂けていく。腰の部分に生じた隙間に腕と首を滑り込ませて脱衣すると、薄手のインナーだけをまとった僕は、水面に向かって飛び込んだ。


 バタ足が生み出す巨大な水柱を背後に感じながら、泉の中央に向かって泳いでいく。5秒ほど経って『猫っぽい生き物』にたどり着いた僕は、濡れた毛並みを両手でつかむと、空に向かって高く掲げた。金髪ボーイが『パーチ』と呼んでいたそいつは、


「ギニャニャギギャ」


 と叫びながら、僕の腕に噛みついた。……あんまり痛くない。というか、歯が立ってない。なんだよぉ、生まれたての子猫かい? それにしては犬歯が鋭いな。

 僕は余所行きの笑顔(ビジネススマイル)を浮かべると、パーチに向かって語り掛ける。


「大丈夫かい、キミ」

「グルルゥニャガ! ャガギニャ!」


 大丈夫じゃなさそうなので、そのままの体勢で運ぶことにした。

 僕は金髪ボーイの位置を確認すると、両腕を上げたまま背泳ぎを始める。『高い高い』をされているパーチは、最初は暴れていたものの、くしゃみを二回してから、潤んだ瞳で見つめてきた。

 かわいい。けど、妙に野性的っていうか、精悍な面構えである。ずっと昔、動物園の赤ちゃんコーナーで見た気がする。



 陸地にたどりつくと、そこには金髪ボーイに加えて、もう一人、背の高い銀髪の青年が立っていた。どちらも僕を唖然とした表情で見下ろしていたが、僕が立ち上がると、『ガバッ』と音を立てて目をそらした。

 僕はパーチを地面に下ろしながら、自分の体を改めて見つめる。



 ……ああ、やっぱり、()()()()()()()()



 僕は破れたドレスを拾い上げると、腹部に空いた大きな裂け目に体を潜り込ませて()()

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